Ⅱ
久しぶりに母親と再開。
そう、俺の母親は警察官をやっているのだ。しかもこの警察署で。だが俺は警察署の中に入ったことは1度もない。
まあそんな訳で中々家に帰ってこない。人口が多い町ではあるし忙しい部署に配属されているらしいのもある。しかもシングルマザー。どうしても家に2人しかいない日が多くなるのだ。
「なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫よ……最近忙しいからね……はぁ……だれかさんが今日もどこかで変な事件をおこすからね。日本は今日も平和なはずなのに必ず毎日変質者や事故や起きるんだから世の中ていうかちんまい犯罪でも取り締まらなきゃ行けないから余計しょぼい事件起こす人は余計タチ悪いのよこうゆう」
さりげなく愚痴を遮る。
「大丈夫じゃないようだな……とりあえず俺学校行くからこの変質者よろしくお願いします」
母は急に仕事モードの目になって福島とかいう男を見つめる。
「またこの人ね」
「え?」
「もう何回もここにお世話になってるわよこの人」
「確かに10回お世話になってるって……でもなんで捕まえないの?」
「まあ……それは……ね……」濁されてしまった。企業秘密みたいなものだろうか……
そして親子の会話の中で1人で気まずそうにする旅人。
「とりあえずお願いします。朝から大変だったんだよ!」
「まあ、可愛い息子の頼みだもの!まだ仕事残ってるけどこの人の処理はちゃんとするわ。でももう学校始まっちゃってるわよ。高校卒業出来る程度には頑張って欲しいからあまりここで遅刻しすぎるのも良くないわよ?
」
まあだいたいこの福島とかいう男のせいだ。
「分かってるって母さん。もうとっくに遅刻だけどな。そっちも身体壊さない程度に頑張ってな。たまには帰ってきてもいいんだぞ。妹も寂しがってる。」
「1ヶ月後とかかもねー。まあお互い頑張ろうかー。じゃあねー」
「仲がいい親子さんですね。いいことです」
「……とりあえず君は黙ってて。こっちだってあんたみたいな人に構ってる暇ないのよ〜」
男は中に連行されていった。
久しぶりに会えたがあまり話すことが出来なかった。いくら思春期とはいえ、家族が居ないのは慣れたとはいえ寂しい。最悪なきっかけではあったが母親に逢わせてくれたことには感謝した。
思った以上に男の処理は上手くいってしまったことだし、時間を見ると……8時50分。
そんなに時間経ったのだろうか。
とりあえずもう1時間目の授業始まっているし、近くの本屋で時間を潰すなどするか。その前にコンビニで自分の昼食を買わなくては。
すぐ近くのコンビニに行くと棚はほとんど空だった。やはり朝早くに行かないと入荷量が少ないため売り切れが早い。今日はなんとか学食で食べよう。
学校に着くと2時間目が始まろうとしていた。
めでたく初めての遅刻だ。唯一の救いといえば授業の間の休み時間だったお陰で注目されずに済んだことだ。もちろん俺はそれを狙ってこの時間に登校した。学校に着くと唯一クラスで話せる友人である元が話しかけてくる。
「お前遅刻なんて性にあわないぞ。何かあったのか?」
「まあ要は不審者に絡まれた。」
「はあ!?今どき不審者なんているんだな……なんと言ったらいいか……不幸だったな……」
あまり詮索はしないようだった。
「漫画みたいな話だよな。全く。」
「朝からまだ悪夢を見てるみたいだよ。警察署で母親に会えたのは嬉しいけど。」
「そっかお前の親警察なんだな。」
「署の中に入るのは初めてだったよ。でも母さんがかなり疲れた顔してて不安になった」
「お前は相変わらず家族のことが好きなんだな。シスコンでもありマザコンでもあるなんて思春期の男では希少種だ」
「まあそれは認めざるおえないな。問題は妹にこのことを説明しなきゃいけないんだよな。毎日俺の弁当楽しみにしているんだ」
「弁当明日翔が作ってたのか。将来いい夫になれるぞ」
「そろそろ妹にも家事やらせた方がいいか……」
「シスコンにも程があるぞお前」
確かに俺は昔から世話焼きすぎる気もする。だが妹ももう高校生だ。そろそろ1人でなんでも出来た方がいいか。
「いやでも家族を大切にすることは本当にいい事だと思うぞ。うん。」
「そうゆう元はどうなんだ?」
「……ほとんど姉に任せてるけど皿洗いとかそうゆう簡単なのはもちろんやってるぜ」
「お姉さんはもう社会人か」
「そうだよー。早く実家から旅立って欲しいのだが頑なに出たくないらしい」
「外が怖いのかもしれないな」
「よし。次は三河せんせーの授業だ。早く準備しないと」
話を終えると元はそう言って席に戻っていった。
昼休み。憂鬱である。この数時間ずっと朝のことを考えていたせいで授業を聞いていなかった。あとでノートを見せてもらおう。
俺は毎日自分の弁当を作る余裕が無いので学食に行くのだが、先に妹の教室に寄らなければならない。それに不審者関係で気になることもある。今は一個下の階の1ーAの廊下側の席であることは記憶している。
チャイムがなった瞬間俺はすぐに妹の教室に向かった。
そして数十秒後三つ編み、黄色い髪の女子生徒に廊下で堂々と土下座している男が誕生した。
「お、お兄ちゃん……そんなに謝らなくても大丈夫だよ~」
「いや。一度あることは二度あるかもしれないだろ。ここでけじめをつけないと俺のプライドが許さん」
「いやいや。別にそれはいいんだけど…。ほら、周りの迷惑になってるでしょー」
もちろんここは廊下で行き交う生徒達の通路を塞いでしまっていた。
周りにとってはいい迷惑だった。それに凄く白い目で見られている気がする。
「すまなかった。あとこれ昼食分の金。」
「お兄ちゃんそこまでしてくれるだなんて!ありがとう〜」
「あと1つ質問いいか?」
「うん……何?」
「行く時玄関の前に不審者居なかったか?」
「いや誰も居なかったよ?」
「そっか……理由を説明するとな、要は俺が出た時に家の前に不審者が居たんだ。そして弁当をひったくられて……てそこから色々。」
「え!それは災難だったんじゃ……とりあえずお疲れ様……」
それから
「お兄ちゃんは何も悪くないから気にしないでね~。ありがとう!」
そう言って階段を降りていった。
最後まで優しい言葉をかけてくれる。これが俺がシスコンと言われるまでに甘えてしまう理由だろう。
「ああ……やっぱりか……」
やはり学食のメニューは売り切れてしまったようだ。
購買の方はまだ売り切れてはいないだろうが、学食はまずいと言われがちだがこの学校は美味しいと評判でこれ目当てで入学する生徒も多いと聞く。
妹は好き嫌いが多いため毎日俺が弁当が作っているがもちろん普通の生徒は学食に行く。しかし人気すぎるが為に数量限定でしか作られない。そして救済措置として購買があるわけだ。
とりあえず購買でパンを買いに行こう。
と購買に向かうも購買のおばさんがレジに「本日分終了」という紙を貼っているのが見えた。
これは……最終救済措置のあれを食べるしか無いのかもしれない。
そうして学食に戻ってきたのだが、券売機の隣にある
「本日の余った食材」のコーナーへ行く。これはボウルの中に今日のメニューに使われ余ってしまった食材が入っていて無料で味わうことが出来る。食品ロス削減の一環である。
しかし今日は中にもやしだけ入っていた。
普段は人参とかレタスとかサラダみたいなものなのだが、今日に限ってもやしだけだった。
仕方なくセルフサービスなので皿の上に割と多めによそう。彩りがない上に味付けされて無さそうだった。具材がせめてもう少しあればなぁ……
いつも通り元が窓側の2人席を確保していた。さすがの元も俺の皿を見て面食らった顔をした。
「流石に今日は地味すぎるな……おし。ラー油でもかけるか」といい机の上にあるラー油を手に取り、もやしにかけ始める。
さっきよりは美味しそうではある。とりあえず1口食べると
「…………思った以上にいけるな。」
「そうか?もやしなんてかさ増しに使われる味のない食材だろ。ラー油が美味しいだけじゃね?」
「味噌ラーメンの具材という感じだな。店舗のラーメンとかにたまに載ってるだろ?」
「それ言われると確かにな。ラー油とかキムチとかなら合いそうだ。俺はもやしあまり好きじゃないからナムルや春巻きに入ってるもやしは理解できないな」
「春巻きに入ってることあるんだな。味がない分色んな料理に使いやすいもんな」
「というか春巻きに普通入ってるだろもやし!」
喧嘩とまでは行かない馴れ合いが起こっている。
「いや、春巻きは野菜を入れるもんだろ?もやしは豆だろ」
「この意識高い系もやし大好きでも社会の点数30点木にぶつかる野郎が……」
「どんだけ俺の色んな事引きずってるんだ…。」
知らないうちにものすごいあだ名が付けられていた。
「君たち〜。もしかして食事を忘れてしまったのか?最近は特別な事情がない限りは弁当を推奨しているんだがな。」
この声は。
「え……はい。」
「最近食料が思った以上に手に入らなくてな。昔は賞味期限切れのパンだったんだがな。ただでさえ学食は戦争なのに最近はもっと手に入りずらくなってしまって申し訳ない。」
制服を着てはいるが、実質この学校の長だ。最近理事長が入院してしまい細かい事務以外は全てこの子の判断によってこの学校が動いていると聞いている。これがあの水無月家の娘である。高校生だが何故か杖を肌身離さず持っている。
「……急に話しかけられて困惑されるのもそろそろ慣れてしまったな。同年代だからもう少しは肩の力を抜いて接して欲しいところなんだがな。まあこれも学校をより良くする為の一環だ。奇遇にも今日の負け組はお前達だけだ。少し協力して欲しい。」
逆らえない。
「いいっすよー。がくちょーの頼みであれば何でも!」
元は即答。
「おいおい。タメ口でいいのかよ。」「これぐらい気楽に接してもいいだろっ。」
「はっはっはっ!気に入ったぞ。お前たち。」
「まずそこの金髪。」
「はっ。」
「質問は一つだけだ。なぜ学食でご飯を食べてるのかを教えて欲しい。」
持っていた杖を向けながら言ったので事情を知らない人が見れば脅迫に見えるだろう。
「……普通に弁当を作る時間が無いからであります」
「ほう?コンビニなどでパンを買うのはどうなんだ?」
「できる限りお金を節約したいからであります。最近コンビニのパンは1個買うだけで300円もするんですよ!」
「そうなのか。素直な理由だな。続いてそこの黒髪。」
「……朝人助けをしていたらコンビニの食料が売り切れていました。」
「人助けなんて君はお人好しなんだな。そんな短期間で売り切れてしまうものなのか?」
「俺の近くのコンビニがこの学校の近くなので。」
「ほう。金髪の方にはお金の問題があるようだが君は大丈夫なのか?」
「まあ、趣味より生活費の方が大切なので。」
「なるほど。つまり君には趣味がないのか。」
「……そうゆうことになりますね。」
「まあこれで質問は以上だな。久しぶりに長話出来て楽しかったよ。また会えたらよろしく頼む。」
と足早に去って行った。
「お前半分ぐらい嘘ついたな。人助けでは無いだろ。」
「そうだな。だが本当の事情を話すのは余計混乱を産みかねないだろ。」
そうして様々話をしているうちに早くも食べ終わってしまう。もやしぐらいの量にしては来客が1人多かった食事の時間だった。新たな発見が出来た事だしいい昼休憩になったかもしれない。
昼が明けた午後の時間が1番憂鬱だ。少なくとも今日は全体的憂鬱だが。
月曜日が憂鬱なのと同じ原理で休みが終わったあとはまだ休みたいという心理が働くのは人間の生理現象だろう。そして昼休みの後厄介なのは眠気が襲ってくることだ。
よりによって社会の授業は雑談が多く眠くなってしまうのでやはり周りは既にお倒れになっている方が続出。
そして俺もその予備軍の中にいた。何より社会はつまらないという訳では無いが、テストでも点数は取れるし教科書の内容に準じているので授業を聞かなくても問題がないのだ。だから脳がこの時間は休んでもいいと認識するのか知らないが眠くなってしまうのだ。
そんな先生の声が響く静寂の中に突如現れる、
――世界が終わるとも錯覚してしまう耳を突く不気味で寒気のする音。その音をこの世界で知らない者はいない。いわゆる緊急地震速報や防災無線と同じような不協和音……
「まさか…………」
I(アイ)~これは愛する日常を取り戻すための物語~ ばななとべーこん @banabekon
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