Day0

今朝こんな夢を見た。


 1本の大黒柱のように聳え立つ桜に知らない女性が2人いる。

 そのふたりは向かいあいながら言い争ってるように見える。

 それを見つめるだけで俺は何も出来ない。

 右側に立っていた女性がこちらに気づいたようで顔を向けてきた。

 その表情は泣いている。

 夢が終わる瞬間、女性の声が聞こえたような気がした。

でもそれも曖昧で聞き取れなかった。




俺は今、猛烈に困惑している。

なぜなら目の前に全くもって知らない成人男性が倒れているからだ。

 


 

 学校で呑気に授業を受け続ける日が普通の日であるとすれば例えば学校でテストがある日行事がある日はいつもやっていることではないから特別な日になる。

という哲学的な話になっても要は何事も起きない日が普通な日である。

 現に俺は誕生日やら受験やら普通の日から昇華した日を過ごすことはあったが人生の8割ぐらいは普通の日だった。特に起伏のない日々というのはつまらなくもある。だが普通の日がどれほど幸せなことであるか実際特殊な日を過ごしてみることで痛感する。だから俺は普通に過ごせる日々が好きだった。

 朝、俺は何故かいつもの日常に感謝したい気分だった。



 俺が住んでいる街、蒼歌市。郊外にある人口が割と多い街。数年前に子育て世代への支援に自治体が力を入れた。都心へのアクセスの良さもあり大勢の子持ちが移住した。結果今ではその子供らが成長し今では市の人口の半分程は学生でほぼ学園都市と化した。市には3つ高校がありどれも全校生徒は2000人程。偏差値はいい具合に3段階に別れており、1つは偏差値65超で県外からも沢山生徒が来る私立高校。もう1つは偏差値50程の全国を探してもどこにでもある市立学校である。これらの学校は移住ブームが来る前からあり特に語ることもないのだが、問題はもう1つの高校である。偏差値40の私立高校。この高校は移住者が大幅に増えた後設立されまだ開校数年である。制服は特に女子は派手で気恥しい。ここはなにせ大手IT企業などを運営する水無月財閥が将来のリーダーを育成したいがためにつくったと自分は思っている。水無月財閥は他にも動画投稿サイトなども運営しているので特別推薦でインフルエンサーとかも学校にいるらしいが詳細は不明だ。まあとにかく自由な校風であり普通なら人気が出そうではあるが自由すぎるが為に1部の生徒がかなり羽目を外し開校一年目は苦情が絶えなかったそうでそのせいで印象はあまり良くない。それもありしっかりした親達はこの学校には入れないのが学校に入りやすい原因だ。

 俺は出来れば兄妹一緒に同じ学校がいいという家庭の事情の下、成績が振るわない妹のために仕方なくこの高校を選んだ。

そして入学から1年とちょっと。無事妹もなんとかこの学校に進学してきて今日も朝早起きの4時起きだ。何故かと言うと毎日妹への弁当や前日やり残した家事をするためだ。残念ながら料理がそこまで得意では無いため時間を多く要してしまう。そうして7時になると妹も起きてきて弁当と一緒に作った朝食を2人で食べるのだ。

 両親は今は母親のみで母親はずっと仕事で忙しく中々帰って来ないためどうしても2人でこの家をまわさなければ行けない。

 そうして忙しい朝も終わりを迎える。

 ようやく無味な授業を受けに行くために家事を終え部活のため先に行った妹のなぜか忘れた弁当を持って玄関を出た所にそれは居た。

 お腹を空かせて倒れている成人男性が。


 これは無視するべきなのだろうか。そもそも朝完全に目覚めていない脳で錯覚を見ただけなのか。そもそも妹はこれを無視したということだろうか。という様々な思考が1秒くらいの間脳裏を駆け巡る。

とりあえずせめてこの人を誰かに保護して欲しい。俺みたいな普通の男子高校生には対処は不可能である。とりあえず話しかけるのが最適解だと結論した。

「あの、母か父の知り合いでしょうか?うちに用でしたら父と母は暫く帰ってこないので別の日に改めて来てください!」

「……飯……飯」

「はい?」

「飯をくれ……」

 駄目だ。これは何かしら食べさせないと話にもならない。

――よく考えると俺の手の中に妹の弁当という食料がある。

 それよりも警察に通報するべきだ。通報したら警察が来て何とかしてくれるだろう。

 いや待て。これだと普通に道端で倒れてる人がいるというだけでこいつが不審者だという証拠が出せないかも知れない。保険には保険をかけておくべきだ。

「そんなにお腹が空いているのでのでしたら、これどうぞっ……」若干イラついてるので声に出てしまったかもしれない。だが、これで確実に俺の飯を食べたという証拠はとれる。

 するとその成人男性は犬のように飛びついてきて瞬きもしない間に妹の弁当をひったくる。

そして一瞬にして風呂敷を広げる。「いただきます!」

よく見ると目を輝かせ泣きながら味わいながら妹の弁当を食べる。ちゃんと食への感謝が出来る礼儀正しい人だった。そもそも人の家の前で命乞いをする時点で礼儀もクソもないのだが。

数分後早くも完食。

「少し量が少ない気もしますが貰えただけ良しとしますかー」と言い何事も無かったのように立ち去ろうとする。

「ちょっと待ってください!!」

「うん?もしかしてナンパ?そうゆう趣味ないのでお断りしまーす」

「あなた、、自分がしたことわかってるんですか!?ご飯を無料で食べさせるわけないですよ!!」ここまで計画通り。

「えーナンノコトデスカ」明らかにわかりやすい態度。

「あーもう警察に届けますよ。盗難罪で。」盗難罪なのかは分からないがなんかの罪にはなるのだろうか…………

「待って待って待って!!それだけは勘弁して!!お金払えばいいんだよね?何円?」

「あれ一応弁当なんで学食分はあなたに払ってもらいますよ。あ、あとなんでうちに来たんです?それを聞くまでは……」

「……美味しそうな匂いがあなたの家からしたもんですから」

 こいつまじで言ってるのか……と言いたいところだが

「では何故飯も食えないほどお金もないんですか?」

「それは殺伐とした東の国からやってきた旅人から」

 こいつまじで言ってるのか……

「あのふざけないd」

「ふざけてないですよ。お金が無い訳では無いのですが宿が欲しいものであえて養ってくれる人を探すためにお腹を空かせていたのですが驚く程に誰も助けてくれませんでした!!!」

 近所迷惑になるほどの大声で言った。

「それは大層阿呆なことをやっていたんですね」

「よく言われます」

 自覚あるのかこいつ。

「でもうちは普通の家ですよ。あなたを養うことはできませんよ。」

「そこをなんとかお願いします」

 がちで頼んでくるんだ……と蔑んだ目を送るしかないのだが時計を見ると8時10分を指していた。門限は8時半である。ここから歩いて30分程のところに学校があるというのにこれでは間に合わないかもしれない。

ならばいっそこの変質者を警察に届けてしまった方が早いだろう。

「あの……とりあえず俺にした罪は置いといて警察に行った方がいいですよ。家族とかも心配してるかもしれないですし……」最大限の譲歩。

「追われてます」

「?」

「だから警察に10回くらいお世話になってしまいまして……。家族に関してはもう自分は捨てられたも同然ですし、次警察にお世話になったら本当に捕まってしまいます!!!!!」

 近所迷惑になるほどの大声で言った。

今まで同じようなことをして警察に何度もお世話になっているのなら納得が行く。(だが何故捕まらなかったのか)ならもういっその事警察に突き出すしかなさそうだが……よく考えてみればお金が無いと言っていたし、実際服は白いスーツに中に黒いシャツを着ていて中々清楚な服装をしているのだがボロボロだった。もしかしたら本当に旅人で明日の食事でさえも困っているのかもしれない……という良心が働くも何があろうとまずは警察に連れていくのが正解だ。

「とりあえず俺は学校がありますし、これ以上長話することも嫌です。ここで通報するよりはたまたま通学路の途中に警察ありますし俺の通学のついでにあなたには監獄に入ってもらいます」

「まだ高校生の若造に言われると心が折れてきました……分かりました。今回”も”諦めて暫く警察にお世話になりますよ……」

 案外サクッと折れてくれた。とはいえ警察に連れて行ってもこんなのが何もされずに野放しにされるのは酷い話だ。

 

 そうして通学路にある警察署に男を同行させたのだが途中ずっと無言だったのが少し気がかりだった。まあ他人に飯を要求してくる奴に同情や共感はできないのだがやはり事情はあるようなので本当の悪人ではないことは確かだ。

 長い坂道を道なりに歩くと、横断歩道(車通りが多い)ところが見えてくる。そこには点字ブロックや標識などが置いてある上狭いので絶賛の事故ポイントだ。赤だったので青になるまで待っていると、杖をもったおばあちゃんが点字ブロックでつまづいて転びそうになってしまった。俺は気づくのが遅かったのだが、飯貪り男は光の速さでおばあちゃんに「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」と紳士のような声をかけながら助けていた。

 また横断歩道を渡って少し道を進んだ小学校の子供が挨拶をしてきた時もにこやかに優しい声で挨拶を返していた。

 まあ、優しいのは結構だ。しかし家の前で待ち伏せして飯を求めるのは常人ではできない行為なのだが……

 何方にも見せていた笑顔が妙に頭にこびりついた。


 そんなこんなで警察署に着いた訳だ。通学路に警察署と言えるほど大きい警察があるのはやはり治安が良くていい街だ。

 手続きも良く分からない俺だがとりあえず中に入ろうとするのだが、、、

1番重要なことに気づく。

「名前聞いてなかった」何かしらで必要になるだろう。

「……あ、はい。そうでしたね」

 何か考え事をしていたようなどこか抜けたような顔をしている。

「ここでお別れになる可能性があるとはいえ自己紹介も無しとは無礼ですしね」

 そうゆうわけでもないのだが……妙に丁寧なのが気に障る。

「名前は福島三千人、年齢は25歳です。職業はいわゆる旅人で……」

「要はニートですか」

 やはりそうゆう奴だった。

「に……ニートではあ、ありま、せんからね……ちゃんとお、お金稼いでいますし……」

 冷や汗をかきながらタジタジになって答える。

「割と気にしてたんですね」

「よければ貴方の名前も教えて頂けませんでしょうか。助けて貰ったお礼はしたいですし……」

まあ、相手が教えてくれたのに自分は無言で立ち去ると言う訳にも行かない。ここはしっかり苗字ぐらいは伝えておこう。

「泉水です。高二です。もう少し歩いたところにある高校に通ってます。」

「泉水さん、この度はありがとうございました。またお礼しに行くのでその時はお願いします」

「いやいや。(そこまで丁寧にお礼されても……という感じですけど)一応有難く受け取っときます……まあまずは警察でちゃんと反省してください」

「それはしっかり分かってますよ」

 ご飯を食べた後からずっと敬語で話していて優しいですよ!丁寧ですよ!紳士ですよ!というオーラが全面に出ているのでたまにそれに飲み込まれそうになる。だが何とかもちこたえることができた。

 学校は遅刻確定だが1時間目だけすっぽかす分には大丈夫なので早目に終わらせてしまおう。

 警察署に入って受付に行こうとすると廊下側から

「え!ちょっとどうしたの明日翔!?」

 懐かしい声が聞こえてきた。

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