I(アイ)~これは愛する日常を取り戻すための物語~

ばななとべーこん

Prologue

Prologue


……痛い。

 左腕が痛い。触ると血がべっとりついた。

 足も右足を引きずっている状態である。もうどうなっているのかを見たくもない。

 1週間後街は炎に包まれている……と1週間前の俺に言ったら信じる訳もない。

 普通の日々だった。たった一つの問題を除けば。学校に行って大人は仕事に行って子供は公園で遊んでいる。いつもの光景。

 

 なんでこんなことになったのか。それはまだ分からない。ただ確実に言えるのは、すべては1週間前のあの日から狂っていたんだ。


 俺は今坂を上っている。

 どこへ続くか――それはこの街で1番のシンボルの巨樹だ。

 そこに向かうとどうなるのか俺はまだ知らない。ただそこに行けと言われたからにはもうそれ以外の方法はない。

 この道の途中にもあちらこちらで人が倒れている。中には子供もいる。既に息をしていないのかもしれない。でも直に俺もこの街いやこの国のほとんどが死ぬだろう。

「お兄さん……まだ生きとるんかい……助けてくれぇ……子供が死にそうなんや……」

 まだ機能している左足首を急に掴まれる。老婆のようだ。

でもそれを俺は「すみません。時間が無いんで。」と突き放す。

 人としてありえない行為だと思う。でももうどうせ死ぬんだ。少しぐらい神様なら許してくれてる。


 息が苦しい。少し休憩しようと立ち止まる。後ろを振り返るともう街は小さくなっていた。

 やはり街は跡形もなくなっている。

 前を向くと樹はすぐそこだった。


ああ、どうか神様。もし願いが叶うならこの一週間を、もう一度やり直させて欲しい。

 いよいよ立ってられなくなってきた。限界は近いだろう。

 赤く塗られている手は道に跡を付ける。

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