第37話

今日は一学期の最終日、今日さえ終われば課題は相当な量出るがみんなが待ちわびていた夏休みに入る。僕はいつも通りの時間に学校に来たんだけど、珍しく朱里さんが居たので廊下で話すことにした。


「長いようで案外一学期短かかったなぁ……。夏休みで何組かカップルが出来上がっちゃうんだろうね、ボクだって誰かと付き合ってみたいなぁ」


「恋愛の話は僕にしない方がいいと思うけど? 全くもってそういう経験は無いからね。じゃあ付き合ってみたいって言ってる朱里さんに好きな人とか居ないの?」


「いるよ、一人」


朱里さんって琴理さんといつも一緒に居るから琴理さんと比べて見劣りしちゃうけど、僕が言うのもあれだけど朱里さんだって十分可愛い。普通に告白しても成功しそうだし、告白されそうでもある。


「へぇ、それってどんな人?」


「好きになったのは結構昔のことなんだけどね。どんな人、だったっけ……もう、声も顔も忘れてしまったなぁ……」


「忘れた……?」


朱里さんは窓の外を見ながら切ない顔をして口を開いた。


「その子と仲が良くて、ボクはずっと片思いをしてたんだ。ボクはいずれ告白しよう! ってずっと思い続けたんだけど……その子は転校しちゃったんだ」


なんか湊もそうだったけど、好きだった人が転校して付き合えなかったってことは結構あるんだね。僕は恋愛のことなんて何も分からないけど、好きだった人が転校する時ってどんな気持ちなんだろうね?


「声も顔も忘れたってどういうこと? そんな前のことなの?」


「ボクがその子の声を聞いたのは小学生の時が最後だよ? たった一人の変わりゆく顔と声を今まで覚えておけるほどボクの記憶力は良くなかったみたい」


「今もまだこの日本っていう国にいるのならいずれ再会できるよ」


「そうだと、いいなぁ……」


朱里さんはそれからずっと切ない顔をしながら窓の外を見続けていたけど、琴理さんが通った瞬間に朱里さんは琴理さんのところに笑顔で駆け寄っていった。ほんとに朱里さんは琴理さんのことが好きなんだなぁ。


「天、あかりんの恋愛相談には乗らない方がいいよ。一途すぎて男子からの告白を全部断って未だに同じ人のことを思い続けてるから普通の人がアドバイスできることはないし」


「琴理は恋愛したことないでしょ? 好きな人が出来たらボクの気持ちもわかるかもよ?」


「私は誰とも付き合わないって決めてるから。自分が学校でどんな立場かを理解してるし、そうじゃないと相手が可哀想だから」


琴理さんも琴歌さんと同じく学校の中では付き合いたい人が多いのだろう、そんな中で例えば僕がその二人のどちらかと付き合ったとするのなら他の琴歌さんや琴理さんのことが好きだった男子からはよく思われないだろう。まぁ嫉妬する人ばかりってわけじゃないと思う、ちゃんと祝福してくれる人もいるだろう。


「本当に琴理さんのことが好きな人ならそんなこと気にしないと思うけどね、僕だって気にしないもん」


僕は最後、そんなことを呟いて教室の中に入った。



§



「琴理、天くんに告白されたんじゃない?」


「いやいや、天は告白なんてするような人じゃないし私と同じで全く恋愛に興味ない人だから。でも……さっきのは告白に聞こえるよねぇ」


多分天に全くそんな気は無いんだろうけど、さすがに告白と受け取られてもおかしくないでしょ。


私や琴歌と付き合うってことは他の男子からの嫉妬を買うってことで、嫌がらせをされたりするかもしれない、私は相手がそんな思いをしないように恋愛はしないようにしてる。

 ︎︎本当に私のことを好いてくれているのならそんなことを気にしないと言うのはあながち間違いないのかもしれない、そして天はと言ったのだ。


「ま、琴理はボクのだから天くんが本当に琴理のことが好きでも渡してあげないけどね!」


「別に私はあかりんのものじゃないんだけどなぁ……。さすがに義理とはいえ姉弟同士で付き合うのはまずいでしょ」


「いやぁ別に悪いことじゃないし誰にも文句を言われる筋合いは無いと思うよ」


そもそも天が私のことを好きかなんて決まってないんだけどね、というか私は告白する側じゃなくてされる側だし。まぁでも、もし付き合うとしても天なら私も安心できるかな……私のせいで悲しませることもないと思うし。


天には色々助けて貰ったことがあるし、他の男子より好感度が高いというのはあるけど結局のところは義弟だ。天は琴歌に譲ろう、見た感じ琴歌は天のことを好いてそうだし。


「そういえば琴理は夏休み何かするの? またお泊まり会?」


「どうだろ、今は天の家に住んでるしそれは天に聞いておく。後は天の実家に帰ったり天体観測をしに行ったりかな」


「思ってたより予定詰まってるじゃん、まぁボクは夏休みの内に一回でもお泊まり出来れば満足だからね」


「本当にあかりんは私のことが好きだよねぇ。私、あかりんに何か特別な事したっけ?」


本当に記憶が無い、ただ一緒に幼馴染として琴歌と三人で楽しくやってただけな気がするけど。


「そういうとこだよ、ほんと……琴理とっては些細なことなのかもしれないけど、それにボクは救われたんだよ。だからボクは琴理のことが好き」


「まぁ、あかりんが嬉しそうならそれでいいや。ほら、早く教室入るよ」


「分かったー」


こんな感じの日々がこれからもずっと続けばいいなぁ。


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一軒家に男1人と双子、何も起きないはずもなく。 桜木紡 @pokk7

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