第36話
昨日の夜、ゴミを入れられてた件は解決したと電話がかかってきた。放課後に張り込んでたらしいけど、相手も誰かに見られてるとは思ってなかっただろうね。
︎︎だって初めて入れた時から今まで誰にもそのことを指摘されなかったのだから、今回も見られてないと思ってたんだろう。
正直ゴミを入れられてるだけで、僕や他の人に実害は出てなかったから湊もそこまで張り切らなくても良かったんだけど、まぁ解決したらしたで僕にとって嬉しいことだし。毎回靴箱に入ってるゴミを持って帰って捨てるからゴミ袋がすぐパンパンになるんだよね。
そして今日僕が学校に行くと、ゴミじゃなくて一枚の紙が入っていた。
「なんだろ、これ」
靴箱に手紙を靴箱に入れるのって告白のテンプレートじゃないかな、漫画で何回も見たことある。まぁ教室に行ってから読もうかな……というかまた僕、また何かに巻き込まれるのかな。
とりあえず教室に行って荷物を置いて手紙を開く。
「えーなになに?」
『前からずっとすまなかった、手紙で伝えることを許して欲しい。俺はずっと前から琴歌さんが好きで、そんな琴歌さんをお前に取られるかと思って焦ってしまったんだ。
︎︎俺は馬鹿なことをしたと思ってるよ、もう一度言う、本当にすまなかった。停学期間が終わった時に改めてしっかり謝罪をさせてくれ』
多分前から僕の靴箱にゴミを入れてた人が書いた手紙かな? 湊が解決したって言ってたし琴葉さんに怒られて反省して、今はその罰で停学中ってことか。というか僕はその人の名前も顔も知らないし多分停学期間が終わって声をかけてもらわないと忘れて放置しちゃう気がする。
︎︎まぁ向こうは謝罪するって言ってるし僕の靴箱にゴミを入れてたってことは僕が何組の何番かも知ってるはずだし向こうから来てくれるでしょ。
何日間停学になってるかは知らないけど、四日を超えたらもう夏休み入っちゃうんだけど。夏休み明けまでになったら普通に忘れるって、他に考えないといけないことがあるし僕にとっては謝罪はされてもされなくてもどっちでもいいし。
「夏休み、かぁ……」
夏休みに何か特別な思い出があったことは無い。
学校から渡された課題をして、終わった後も勉強してるだけだった。夏休み中一回も外に出なかったことを父さんに驚かれもしたけど、中学の頃の僕は外に行ったって何もすることがないから外に出るなんて考えは全くなかった。
今だったら誰かと一緒にどこかへ遊びに行ったり、何か特別な思い出になるようなことをするのかな? 既に実家に三人で帰る予定と、天海さんがご飯を食べに来るっていう今までになかった予定があるし思い出は作れそうだ。
︎︎まぁその二つとも向こうから提案された事だし、僕の性格上誰かを誘うってことはできないだろうからそれ以外の日は誰かに誘われるまで空いたままかな。
「天、湊くんから報告を受けた件についてだが何か聞きたいことでもあるか?」
琴葉先生が中に入ってきて僕にそう聞いてくる。
「湊からの報告って僕の靴箱にゴミが入ってたことについてですよね。その入れてた人が停学中って今日入ってた手紙に書いてあったんですけと、具体的には何日間なんですか?」
「詳しいことは言えないがこの学校の規則に従って一週間だ。君は既に感覚がおかしくなってるから何も思わなかったのかもしれないが、私は立派ないじめだと判断して罰を下した」
感覚がおかしくなってる、か。琴葉さんにそう言われるのも無理は無いかな、実際僕は靴箱にゴミを入れられたことについてただ帰ってそのゴミ捨てるのが面倒だったとしか感じていないしね。
「君は問題に巻き込まれることが多い、色々物事の感覚が狂ってくるだろう。過去の物事と比べて今の物事は前よりマシだから大丈夫、なんて考えるな。
︎︎どんな問題に巻き込まれたとしても今は今だ、過去と比べず今できる最善の選択を選べるようになれ」
§
時はすぎて、昼休み僕はいつものように湊と一緒にご飯を食べていた。
「今思ったんだけどさ、天って琴葉先生と話してる時が多くない? 気に入られてるの?」
「あー、この前僕の父親と琴歌さん達の母親が再婚したって言ったじゃん?」
「そうだな、本当に今までの高校生活の中で一番驚いたことはそれかもしれん」
「それで琴歌さん達の母親が琴葉先生、ほら苗字が同じ月詠でしょ?」
世の中には同じ苗字の人はいっぱい居るけど、『月詠』という珍しい苗字はなかなか居ないだろう。
「だから琴歌さんとかは琴葉先生をなるべく避けてるのか。まぁ自分の通ってる学校で親が先生と働いてたら俺もなるべく避ける気がする」
まぁ僕は琴葉さんが先生として学校にいた方が楽だったことの方が多いんだよね。僕がそう思ってるのも本当の母さんじゃないからかもしれないけど……。
「そういや夏休みに天海達がペルセウス座流星群を見に行こうって言ってたんだが天も来るか?」
「それじゃあ琴歌さん達も誘ってみるよ。琴歌さん達が無理だったら、僕も行けないからよろしく」
「天って本当にずっと琴歌さん達と一緒に行動してるよな」
そりゃあ仕方ないじゃん? もはや僕の生活は琴歌さんおかげで今もあるって言っても過言じゃないんだから。
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