第35話
天の靴箱にゴミを入れていた犯人に着いて行くと、やっぱり着いたのは校舎裏のちょっとしたスペースだった。ここ、周りが木で囲まれてるからみんな呼び出し時にここに呼ぶんだよね。
「うぉっと、不意打ちなんて性格が悪いな。お前そこまでしてなんで琴歌さんに拘る?」
「琴歌さんは俺に優しくしてくれた、女子が男子に優しくするなんてことは普通無いからな。つまり俺に気があるってことだろ?」
女子が男子に優しくすることないって、とんでもない偏見だな。別に女子でも男子に優しくする人はいるでしょ、というかその例が琴歌さんだし。
︎︎それで優しくされたから自分に気があると勘違いしてるのか、妄想も度が過ぎたらヤバいやつだよ。
「琴歌さんはお前だけじゃなく誰にでも優しくしてるけどな? 言いたいのは優しくされたからってお前に気があるなんてことは絶対無い」
「そんなはずは無い! 琴歌さんは絶対に俺のことが……!」
男子が琴歌さんを彼女にしたくなるのは俺もわかる。頭が良くて、優しいなんて男子からしたら最高のスペックで……まぁ、そのせいでこいつやこの前のやつみたいに勘違いしたり無理やり彼女にしようとしたりと、そういうことに巻き込まれる。
︎︎その対処として一番いいのが男子と一緒にいることというのは説明するまでもない。
「俺はお前の無駄な戯言に付き合うつもりは無いんだ、今まで聞いてやったのはせめてもの情けだ。それじゃあ俺はさっさと先生を呼んでくるからよ、いじめとして報告させてもらう」
「いじめ? そんなことはしていないが」
「自覚がないってやばいだろお前、天の靴箱にゴミを入れてただろ? 立派ないじめだ。それじゃあな、生徒指導室にぶち込まれる覚悟でもしておけ」
もちろんそんなこと言ったらそいつも追いかけてくるけど、俺にとってはそっちの方が都合がいい。報告してから探しに行くという手間が省けるからな。
§
まだギリギリ開いてる校舎内に入って、職員室近くの廊下に来たところで俺は足を止めた。
「捕まえた、それじゃあこのまま職員室行きだ。人をいじめた罰は重いぞ」
俺はそいつが逃げないようにガッチリと手を掴みながら職員室の中に入った。これで片手が空いていても俺を殴ることは出来ないはずだ。
「琴葉先生、ちょっと話があるのできてもらっていいですか?」
「どうした? まぁその様子じゃまた何か良くないことが起きたんだろ? とりあえず話をするのにここじゃ他の先生の邪魔になる、生徒指導室に移動するぞ」
琴葉先生が居るとはいえ、こいつが逃げないとも限らないので俺は生徒指導室に着くまで手を掴んだままだった。琴葉先生がそいつを椅子に座らせた時に俺はようやく手を離した。
「さて、何があったか話してもらおうか。湊くんだったかな、こいつはどんな問題を起こした?」
「天の靴箱にこのゴミを入れてました。俺は最近このことを知ったんですけど、天が言うには結構前から入れられていたらしいです、あんまり気にしてないらしいですけど」
「この前もそうだが天はよく問題に巻き込まれてるな、まぁいいとりあえずこいつがやったということには変わりは無いんだったら私がやることは変わらないさ。湊くんはもう帰っても構わないぞ」
それじゃあ俺も姉ちゃんが家で待ってる事だしさっさと帰るとしますかね。多少遅れる程度なら何も言われないけど、遅すぎたら結構怒られるからな。
︎︎とりあえず天にこのことを報告しながら帰るとしよう。
§
「一つ聞こう、どうしてお前はこんなことをした? 何か天に恨みでもあったのか」
「あいつが邪魔だった、琴歌さんの近くにずっと居るあいつが邪魔で仕方がなかった。だから……学校に来させないようにしようと思って色んなことをし始めた」
「要するに嫉妬による行動か、くだらない。いいことを教えてやる、天と琴歌を引き離すことは無理だ」
一緒に住んでるんだ、天が学校を行きたくないなんて言おうものなら琴歌が天に寄り添うだろうし、天はそんなゴミを入れられた程度の事じゃとっくに動じなくなってしまっているからな。一度そういうことを経験したら二度目の感覚がおかしくなってしまうものだ、前の時よりマシだし大丈夫とな。
「まぁいい、お前が天をいじめたという事実が確かだと分かったのならお前には罰を与えないといけない。お前はいつからゴミを入れ始めた?」
「結構前からだよ、もう詳しい日は覚えてない」
「いつからなんてどうでもいい、重要なのはいじめをしたという事実のみだ。この学校はいじめに結構厳しくてな、いじめをしたものは軽かろうが重かろうが罰はある。
︎︎基準で言うならゴミを入れたりなど、暴力振ってないのなら基本的に一週間、暴力を振ったのなら二から三週間。そして最後、ほとんどないがいじめられた相手が不登校になる、もしくは自殺でもした場合はいじめた奴は退学だ」
ここで教師になってもう数年経つが、今まで数多のいじめを対応してきて暴力に発展したいじめは何回も見てきた。何回も経験してるからこそ、罪の重さ関係なく無くしたいとずっと思っている。
︎︎それでもなくならないのがこの世に蔓延る毒とも言えるいじめだ。
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