第3話 目的と目標
闇夜が降りた地上、夜空の下。
辺りの地形は歪み、大地には巨大な切り傷が刻まれていた。その様は、大きな災害が通り過ぎたような......とても一人の存在が起こしたと思えるような物ではなかった。
そんな中、倒壊した家屋とそれを包む炎の中に、男が一人立っていた。
眉間にはシワが寄り、目は大きく見開かれ、固く結ばれた口と拳を作る手からは血が流れ出している。
何を見て、何を体験して、なぜそのような様相になったのか。
それを知る者は、男を除いてこの場にはいなかった。
故に、これはそう、"夢"なのだ。
遠く、しかし鮮明に思い出せる夢。
忘れがたき事実。
それは、男の足元に転がる両親の────
──"顔"
「ッ!」
陽光が差し込む快晴の朝。
そんな清々しい一日の始まりとは裏腹に、少年はじっとりとした汗を掻いて、飛び起きた。
「───クソ...」
焦燥、不安、激情。
不快な感覚の奔流と激しい動悸が、"昔"の記憶を鮮明にしていた。
「....嫌な夢だ」
ーーーーーーーーーー
蛇口から流れ出る水を掬い、顔を洗う。
何度も、何度も。
溢れる不快を洗い流す様に。
「......」
ふと顔を上げ、目の前の鏡を見てみれば、そこには暗く沈む、疲れきった顔があった。
先程見た悪夢のせいだ。
そもそも、俺が鍵王や守護者の殺害を掲げているのには理由がある。
それは勿論、世界の滅亡を防ぎ生きる為といった、ほとんど強制的な物ではある。だがしかし、それ以上に俺は家族や友人......言うなれば、"自分にとっての世界"を守りたいのだ。
前世での俺は、両親との仲があまり良くなかった。その理由は俺の"魔術適性"による物だ。
魔術には適性が付き物で、適性が無ければ魔術は扱えない。
前世の俺は召喚魔術に適性を持つ代わりに、誰であれ多少の適性を持つ筈の、基本魔術を含めた全ての魔術に対して適性を持っていなかった。
それは恐らく今世も同様だろうが、前世の俺はそれが原因となって思春期には精神的に荒れ、一人立ち出来る年齢になると、両親と半ば喧嘩別れの様な形で疎遠になっていた。
両親と和解したのは、鍵王達が現れ、配下である守護者との戦い、その前線から遠く離れたはずの俺の所にまで、人類側の連合軍から招集が掛かるようになってからだった。
故郷の村を離れ、うだつの上がらない毎日を過ごしていた俺は、冒険者の一人としてその招集を受け、後悔を残して死にたくはないと、両親と数年ぶりに再開した。
勝手に家を出て、父にも母にも悪態をついていた俺を、両親は快く歓迎してくれた。その日のうちに、俺は守護者と戦いに行く事を伝え、両親は、覚悟を決めていた俺の背中を、涙ながらに押してくれた。
そしてその日の晩、両親────いや、故郷の村は守護者と聖者の戦いに巻き込まれて壊滅した。
運良く生き残った俺は、両親の無惨な亡骸を見つけ、復讐に燃えた。
そうして俺は守護者や、奴らの仲間として現れた"五大災悪"達との戦いに身を投じて行き、その先々で出会った人達の死を経て、復讐ではなく、二度とこのような惨劇を引き起こさないようにと、決意したのだ。
「...よし」
ふと、生気を失った死にかけの様な顔を両手で叩いて、タオルで顔を拭いた。
いつまでも暗い顔をしている訳にはいかない。
鍵王達が現れるまで時間はたっぷりとあるが、だからと言って貴重な時間を後ろ向きな気持ちで過ごしたくはないし、何より一日の始まりはなるべく前向きでいたい。
「取り敢えずは、身体の確認か」
少し後ろに下がり、鏡に全身が映る位置に移動すると、服を脱いで半裸になる。そして、鏡を見ながら全身を隈無く確認した。
俺が今やっているのは、昨日使った召喚魔術による影響の有無、その確認だ。
魔術は適性さえあれば誰でも扱えるが、それ相応のリスクもある。そのうちの一つが、自身の身体を起点として魔術を使用した事による、裂傷などの身体的傷害であり、まだ身体に魔術の使用に対する耐性が出来ていない子供などに起こる現象だ。
これは、魔力操作の技術などとは別問題で、例えるなら子供でも剣は振るう事は出来るが、重さ故に剣に振り回され怪我を負う形に近い物。
酷い物だと後遺症が残り、その後、魔力の使用すら危うくなる者もいる程だ。
とはいえ、大抵の場合は七歳にまで成長すればその心配も無くなるらしいが......、
「....何も無いか」
鏡に映る自分の身体に傷などは無く、程よく伸びた紺色の髪や黒色の眼にも異常は見られず健康そのものだった。
魔物の少ない村周辺でゴブリンを見つけた事で魔術の使用を少々焦った気もしたが、杞憂で済んだようだ。
───さて、魔術の使用が問題無いと分かった事で、これからは召喚魔術による契約生物を増やす等、本格的に自分自身の実力付けに着手して行く事になる。
だが、俺は前世でも冒険者としては平均中の平均であるC級冒険者だった。
例え一瞬でも俺が守護者達と戦えたのは、悪神との契約によってその眼と片腕を貰い、右腕と左脚が帝国製の義腕、義脚になっていたからに過ぎない。
ならば、俺が前世と同じ様に義腕義脚を取り付け、悪神と契約すれば、守護者達や五大災悪達と多少は戦えるだろう。
だがせっかくの五体満足の身体だ。それを無闇に傷付ける事は無いだろうし、それに恐らく、守護者達は俺に本気など出していなかった。
一人一国と称されるような英雄が容易く殺される場面を何度も見ていた俺からすると、奴らはただ、自分達の本拠地に辿り着いた奴がどんなものかと、面白い物見たさで適当にあしらわれていたように感じた。
その程度の力にわざわざ犠牲を払うのは勿体ないだろうし、今世では別の方法で強くなっていきたいと思う。
とはいえ、冒険者としてC級で伸び悩む程度の才能しか持ち合わせていない以上、俺自身の実力はきっと早い段階で頭打ちになる。
ならばどうするのか.....それについては、転生してからずっと考え、計画してきた。
"聖者"を仲間にし、スキルを入手する。
ざっくりと言ってしまえば、この二つだ。
聖者は前世の世界において、守護者達に対抗する為に作られた人類側の連合軍、その中でも特に高い実力を持った強者達に与えられた称号だ。
結局、彼等も守護者達に殺られてしまった事にはなるが、それでも世界トップクラスの実力者達。自分一人では限界はあっても、そのレベルの者達が仲間になってくれるのならそれなりにやりようはあるだろう。
そして"スキル"は、ごく一部の者が持つ先天的な特殊能力であり、その希少性は数万人に一人とも呼ばれる程だ。
基本、スキルを後天的に得る事は出来ないのだが、唯一、神代の遺物の中には使用者にスキルを与える物が存在する。
当然、そんな物はそうそう見つかる物ではないが、俺が入手しようとしているスキルはどれも召喚魔術に関わる物。前世では召喚魔術をまともに使うようになった時期も遅く、手に入れる事は出来なかったが、その出処や誰に渡ったか等はしっかり覚えている。何か不足の事態でも無い限り、スキルの入手は安定して行える筈だ。
───さて、ここまではざっくりと考えていたが、今一度何を最初にすべきなのかは悩み所だ。
俺も全ての聖者の所在を知っている訳では無いのでその情報収集も必要だろうし、かと言ってスキルの入手も疎かには出来ない。
ただ、スキルの入手を安定して行うにはある程度の条件もある。
聖者を仲間にし、スキルを手に入れる。
この二つを同時に進行して行く以上、俺がまず目標とすべき物は─────、
「────学園...."レイナ・アルカトレア"と"交流戦"だな」
単騎で五大災悪と互角の戦いを繰り広げていた聖者の一人、〈魔女〉の異名を持つレイナ・アルカトレアとの接触。そしてスキル入手の足掛かりとなるであろう四大魔術校交流戦での優勝。
この二つを目指すべき物として、四大魔術校の一つ、王立アストロア魔術学園に入学する事を俺の今の目標としよう。
そしてその為に今するべきことは─────。
ーーーーーーーーー
「....ダメなの?」
「悪いなアレン。その...あんまりこういう事は言いたくないんだが....それだけの金額を払うっていうのは、ちょっと難しいんだ」
思い立ったが吉日。
魔術学園への入学を目標に据えたその日の夕食時に、俺は父に学園への入学を打診したのだが、父から帰ってきた返事は期待していた物ではなかった。
とはいえ、そう返される事は予想していた。
王立アストロア魔術学園は数世代前の国王が王位を退いた後に次期国王の庇護───つまりは息子からの援助を受けて設立された学校だ。
その為、その設備や教育内容は勿論、そこに在籍する生徒も貴族や王族など並外れた物になっている。
一般の庶民であっても入学自体は出来るが、入学費用や授業料、教材費用等は一般庶民では到底払える物ではなく、庶民上がりの者は大抵何かしらの支援を受けて入学するか他ない──────と、前世に酒の席で他の冒険者が愚痴っていたのを覚えている。
父は以前A級冒険者として活躍していた過去があるのだが、A級は人外と呼べるS級を除いて冒険者としてはトップクラスの等級だ。
そこまでになれば一般庶民とは隔絶した稼ぎが入るのだが、父は既に引退している身。流石にそこまでの金は残っていないのだろう。
一応、入学出来るようになるのは十五歳からなので八年後までにそれだけ稼げれば良いのだが、父の反応を見るに復帰した所でそこまでの金額を稼ぐのは難しいようだ。
前途多難。
早くも躓きそうになる計画に不安を感じながら俺は夕食を食べ進めたのだった。
二度目の世界は救ってみせる 早見泉 @AREHUGANDO
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