最終話  彼女はヒロインでヒーローで。



 ……遊園地に行った日の、次の日。

 休日であったため、愛は博士の下へ訪れていた。


「はい博士、これお土産。他のヒーローにも渡しておいて」


「おー、こりゃすまんのぅ」


 愛が渡したのは、お菓子の詰め合わせだ。

 プライベートで他のヒーローと愛は会うことはできないが、博士ならば会う機会もある。なので、その時に渡してもらおう。


 一応、怪人を倒す同じヒーロー仲間なのだから。


「しっかし、驚いたわい。愛くんが遊びに行っとる遊園地に、怪人が現れたと報せを受けた時は」


「あははは」


「その上、愛くんが怪人を倒したと判明した時はさらにの。しかも素で」


「あははは……」


 遊園地の一件は、博士に話してある。


 警察には博士経由で、たまたま遊園地に訪れていたヒーローがたまたま怪人を倒し姿も見せず消えた、と説明している。

 ヒーローなんだし、まあそういうこともある、と納得してもらえた。実際、レッドはそそくさと怪人退治をしているわけだし。


 そして愛は……いろいろ考えて、ヒーロー休暇を、取り下げた。

 なんか、休暇があんまり意味ないような気がしたし……結局、怪人のことが気になってしまうのだ。


 自分が休んでいる間に、誰かが怪人にひどいことをされたら……

 そう思ったら、いろいろ吹っ切れた。


「プールのときといい、愛くんは怪人に好かれとるのぅ」


「嬉しくないです」


「それで……どうだったんじゃ、たけるちゃんとの恋の行方は」


 コーヒーを飲み、博士は表情を緩ませた。

 遊園地に、尊と出掛ける……それだけ知らされていた博士は、下世話な視線を向けた。


 愛の顔が、赤くなる。


「な、なにもありません! ないですから!」


「そうか……そりゃ残念じゃのぅ」


 なぜかしゅんとする博士だが、実際、残念なのは愛も同意見だ。

 あと一歩、タイミングが違えば……きっと……


 あのときの勇気は、もう出ない。少なくとも、すぐには無理だ。


「はぁ……じゃ、私はこれで」


「む、もう帰るのかの?」


「えぇ。プレゼント配る相手が、まだいるので」


「忙しないのぅ」


 博士に別れを告げ、愛は研究所を出た。


 遊園地から帰り、母とかいにそれぞれ渡した。

 博士にも渡したし、次は渚の番だ。尊もお土産を買っていたが、愛も個人的に買っている。

 それから、次に登校した日には恵。それから……


 お土産を渡す相手のことを頭の中に描きながら、愛は駆けていく。



 ――――――



「おはよー、愛ちゃん」


「おはようございまーす」


 晴れやかな青空、小鳥のさえずり、賑やかな通学路……いつもの、日常。

 通学路を歩くと、近所のおばちゃんから声をかけられる。小さい頃から構ってくれる、優しいおばちゃんだ。


 微笑ましく繰り広げられるいつもの光景に、彼女はそっと手を振って応えた。

 その際、笑顔を浮かべるのも忘れない。


 柊 愛は、上機嫌だった。鼻唄まで歌って、その様子は見ればわかる。

 遊園地での一件では残念なこともあったが、尊との距離は縮まった気がする。それが嬉しいのだ。


「よぉ、愛」


「ん、よー尊」


 陽気な様子で歩いていると、ぽん、と愛の肩が叩かれた。優しく、タッチするような手つき。

 それが誰の手であるか、振り向く前から愛にはわかっていた。


 振り返ると、そこには幼馴染の顔があった。

 

「昨日はサンキュな」


「どしたの突然」


「渚にお土産持ってきてくれたろ、すげー喜んでたからさ」


 昨日、神成家にお邪魔して、愛は渚にお土産を渡した。

 選んだのは、ブルーのストラップだ。しかも、遊園地限定のコラボ商品。


 本人はたいそう喜び、お礼を言われたものだ。


「ま、それくらいはね」


 愛にとっても、渚は妹のような存在だ。

 彼女の喜ぶ顔が見れるなら、少しの出費くらい安いものだ。


 ふと、愛は尊の顔を見上げた。


「どうかしたか?」


「いんや、なんでもない」


 以前であれば、尊は愛の頭をタッチしたりしていた。けれど、最近はそれがない。

 さっきは肩だったし……考えすぎだろうか。それとも……?


 頭に触られるのはびっくりするので安心したような、少し残念なような……

 二人の距離が、少し変わったような、変わってないような。縮まったと思ったのは、気のせいだろうか?


 それでも、いつも通りの日常は過ぎていく。



 ブィイイイイ……!



 スカートのポケットの中で、スマホが震える。

 取り出したスマホの、その画面を見て……愛は、ため息を漏らした。


 今日もまた、"出た"ということだ。

 自然とため息が漏れてしまうこの仕草、どこか懐かしい。


「どした、スマホじっと見つめて」


「ごめん、私ちょっと用事思い出した!」


「え! なんかデジャヴ!」


 スマホをポケットにしまい、愛は今来た道を、逆走する。

 当然、並んで歩いていた尊は、突然の出来事に頭が追い付かない。


 そのやり取りが、どこか懐かしい気がするのはなぜだろう。


「けど、もうすぐ学校……」


「一時限目までには戻るからー!」


「おーい!?」


 後ろから尊の声が聞こえてくるが、愛は構わず走る。


 人目を避けるように、裏路地に入り……ヒーロースーツを着用。

 ヒーローレッドとして、怪人出現地点へと向かう。


 これが、いつもの日常……

 普通とはちょっと違うかもしれないけど、これが愛の日常だ。ヒーローとして、愛はみんなの平和を守る。


 もう誰も、悲しい思いをさせないために。


「うわぁ、ホームルームまであと十分しかない! 急げ急げー!」


 今日も、町にはヒーローが駆け走る。



 ―――完―――



 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 ただの女子高生だった愛は、謎のヒーローレッドとして活躍する……その裏で、彼女の恋模様はこれからどうなっていくのか!?


 これからも、彼女の普通とはちょっと違う日常は続いていきます!

 その様子が、また書くことがあればまたそこでお会いしましょう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる? 白い彗星 @siro56

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ