第45話 観覧車の二人
前回のあらすじ
一世一代の告白をしようとした愛は、それを邪魔した怪人をぶっ飛ばした。
よりによって、それを尊の前でやってしまった。
それを見た尊は、愛のことをじっと見つめて……言った。
「スゲー! 愛、お前すげえな!」
「へ……」
めちゃくちゃ、感動していた。
「えっと……」
「愛もしかして、隠れてトレーニングとかしてんのか?
あんな怪人を、一発でぶっ飛ばすなんて!」
尊のキラキラした目を前に、愛はただただ困惑していた。
だが、一つだけわかることがある……
これ、愛=レッドと尊にバレてないんじゃない?
「あ、はは、そうなんだよー、あはは!」
なので愛は、全力に乗った。
「マジか、俺も鍛えてんのに、あんなことができるとは思えないよ」
「あっははは……」
今の、とんでもない光景を見て、尊は愛の正体を疑問にも思っていないようだ。
愛的にはありがたいが、その鈍感さは少し心配になる。
「そんな、たいしたことじゃ……」
「いやいや、なに言ってんだよ。まるでレッドみたいだったぜ」
「!」
しかし、尊の頭の中にはレッドが浮かんでいるようだった。
そこから、自分に正体が結びつかないか、愛はドキドキしていたが……
「ま、レッドは男の中の男だもんな。きっともっとすごいぜ!」
レッドは男という考えは、そう簡単に覆ることはないようだ。
「そ、そうだね……」
なんだかとても、いたたまれなくなり、愛はなんとなしに周囲を見回すが……
ふと、視線を感じる。
それは、周囲の人々のもの。
当然だ。怪人が現れたと思ったら、それがいきなりぶっ飛ばされたのだから。
「やば……行こ、尊!」
「え、お、おう」
このままここにいては、どうなるかわかったものではない。
まだ、周囲がなにが起きたか把握していないうちに離れるべきだ。
愛は尊の手を取り、その場から離れた。
(ああもう、どうしてこうなっちゃうのよ!)
走る愛は、ただただ己の不運を呪っていた。
――――――
「おぉお、こんなにヒーローグッズがある!」
二人が入った店は、遊園地内の施設にある、お土産屋だ。
まだ早いかなとは思ったが、偶然目に入ったので、身を隠すにもうってつけだった。
そこで尊は、ヒーローグッズを取り扱っているコーナーに一直線だ。
自分の、ヒーローとしてのグッズが、売られている……
「見ろよ愛、レッドのブロマイド集だってよ!」
「へ、へー……」
愛は、入ったばかりなのに今すぐここから逃げ出したかった。
……だが、嬉しそうな尊を見ていると、愛も嬉しくなる。
愛も、グッズを見る。レッド以外の。
「お、愛もなにか買うのか?」
「さあ。でも、まだ買っちゃだめだよ。まだアトラクション乗るんだから」
先に、めぼしいものを見つけておくのもいいだろう。
「あ、これ渚ちゃん喜ぶかな」
愛が手に取ったのは、ブルーのストラップ。
ブルー様呼びするほどブルーにのめり込んだ渚ならば、ブルーグッズは嬉しそうだ。
ストラップの他にも、いろいろ……
「お土産って、選ぶのも楽しいよね」
「だな」
それから三十分ほど店内を物色し、みんなへのお土産の検討をつける。
帰りにまた寄るため、今は店を後にした。
「あ、警察だ」
「……」
先ほどからパトカーの音が聞こえていたが、あちこちに警察がいた。
さっきの怪人の、処理に来たのだろう。
ふと、いつも現場で会う警部さんを見つけた。
正体は知られてはいないとはいえ、なんとなく愛は、顔を隠して進んだ。
「さ、まだまだ楽しむよ!」
怪人が現れたとはいえ、園内は変わらず賑わっている。
観覧車だけは、怪人がぶつかった影響で少し休みになっていたが……
愛は、小さく反省した。
――――――
「はぁー、乗れてよかったよ」
それから、愛と尊はアトラクションを楽しんだ。
そして、閉園の時間が近づき……最後に、観覧車に乗ることにした。
閉園の一時間前ほどには、作動を再開していた。
「だな。遊園地って言ったらジェットコースターと観覧車だし」
「だねー」
もしかしたら乗れなかった可能性もあったため、やはり愛は反省した。
対面に座る尊の姿を、見る。
お化け屋敷ではトラウマを思い出させててしまったり、先ほども怪人と遭遇してしまったが……最後は、楽しそうでよかった。
「あとは、土産買って帰るだけか……ちょっと寂しいな」
「うん」
窓の外を、見る。
徐々に暗くなりつつある中、地上ではみんな帰り支度を進めていく。
遊んでいる時は楽しかったが、終わりが近づくと寂しい。
それに、楽しい時間はすぐに、過ぎる。
「ありがとね、尊」
「ん?」
「尊があのチケットで、遊びに行こうって誘ってくれなかったら……多分、こういうところには来なかったと思うから」
結局、途中には怪人が現れて、正体がバレないかドギマギしていたけど。
それも含めて、いい思い出になった。
「いいって、俺も楽しかったし。あれは貰いもんだしな」
「ふぅん」
外の景色を眺めながら、話に花を咲かせていく。
なにげない会話の中で、愛は思う。……あぁ、やっぱり好きだなぁ、と。
さっきは、怪人に邪魔されてしまったけど……ここならば……
「あの、さ、尊……」
「くー……」
「へ?」
うつむきがちに、尊を見つめ……その姿に、愛は間の抜けた声を漏らした。
なぜなら、尊は座りながら、寝ていたのだから。
呆気に取られて……それから愛は、「ぷっ」と吹き出した。
「今日は、疲れちゃったもんね」
尊の寝顔を見てから、外を見て……
高鳴る胸に、手を当てる。この気持ちは、いつか絶対……!
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