第56話 エピローグ


 ビル・クライムの一件は解決を見たものの、〈大いなる監視者(グレート・ウォッチャーズ)〉の任務は続く。

 ヒカルによると、〈旧支配者(グレート・オールド・ワンズ)〉の復活は世界中で頻発しており、さらに増加傾向にあるらしい。


 魔物と手を結びたがる人間は、昔から少なくない。彼らが〈旧支配者〉の復活に手を貸しているのが通常のパターンだ。それ以外に、新たな〈旧支配者〉が辺境の鉱山で発掘されたり、外宇宙から隕石とともに飛来したり、異次元の裏側から人間を捕食したりと、その多様性には枚挙にいとまがない。


 こうして、ヒカルと理市の冒険は幕を開けた。恐るべき敵との戦いの日々が続く。


 ヒカルと理市は不死身なのだから、どんなに悲惨な目に合わされても簡単には死なない。言い方をかえれば、死に逃げ込むことができない。それこそ、死んでも死ねないということだ。


 その日、ヒカルと理市は絶海の孤島にいた。360度の視界に入るものは、真っ青な大海原だけである。空は果てしなく高く、強烈な陽射しが降り注いでいた。日焼け止めを使っても、紫外線を完全に防げるとは思えない。


 二人は派手な水着を身につけているが、もちろんバカンスに来たわけではない。理市は手にした双眼鏡を時々海に向けている。


「ヒカルさん、今、待っているのは海坊主かな? それとも今年の干支の龍?」

「んー、どうだろう。海から気配が伝わってくるから、そうなのかもしれない」


 理市は再度、大海原に目を向けた。万が一、〈旧支配者の末裔〉との戦いになった時に備えて、心の準備だけは万全にしておく。


「おっ、来たな。もうすぐ現れるぞ」


 やがて、島が激しく揺れ始めた。地面にしがみついていると、海面が大きく盛り上がってくる。海底火山の噴火かと思われたが、火柱は一本も上がらない。その代わり、とてつもなく巨大なものが現われたのだ。


 大きさにおいては、ビル・クライムの比ではない。海上に出ているのは氷山の一角だろうが、その大きさは山というより山脈に匹敵するはずだ。


 まさしく、〈旧支配者の王〉である。一旦、攻勢に転じれば、関東一円が水没したり焦土と化したりすることも考えられる。理市ごときが敵う相手だとは到底思えない。しかし、後には引けないのも、また事実である。


 ヒカルが〈大いなる監視者〉であり、理市が彼女のサーヴァントであるかぎり。



                 了


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百目姫ヒカルのサーヴァント ~異能地獄変~ 坂本 光陽 @GLSFLS23

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