君の笑顔を見たい

ナナシマイ

 その泣き声は、誰かに慰めてもらうことを諦めたような、それでも悲しみを抑えられなくてというような雰囲気だった。嗚咽に近かった。

 気づかれることもないだろうというどこか投げやりな声に、けれど僕は気づいてしまった。

 どこから? 君はどこで泣いてるの?

 あまりの切なさに僕まで辛くなってくるじゃないか。

 不思議なことで、だだっ広いこの町のどこにいても声は聞こえた。だというのに、声の主は見つからないのだ。

 赤い屋根の住宅街にも、立派な並木道にもいない。町の真ん中にある丘に登って耳をすましたことだってある。けれども声がどこからするのかすらわからない。


 声の持ち主の正体は思わぬところで知れた。

 僕は遠い首都にある大学へ通うことになって、とうとう慰めることのできなかった泣き声に別れを告げ隣町から飛行機に乗り込んだ。

 そうして僕は見たんだ。

 しばらく戻ってこない故郷を目に焼き付けておこうと窓から薄雲の向こうを見下ろして。

 君は泣いていた。

 赤い屋根の唇が、抑えきれない悲しみをこぼしていた。

 並木道の眉毛はへにょりと曲がっていて、丸いロータリーからは噴水の涙が流れる。

 ああ、なんて悲しいことだろう! こんなにも大きな悲しみが、誰にも気づかれずここにあった!

 僕は決めた。君にはどうか笑顔になってほしい。幸いなことに、ちょうどこれから学びに行くのだ。たくさん学んで、いちばん偉くなってやろうじゃないか。

 そして大改造するんだ。

 この、直径五〇マイルもある巨大なきみを。

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