第九話 中ボス撃破
中ボス部屋には鉄のボールの中に入った変わったクマがいた。
それはぐるぐると部屋中を転がりながら流れに任せて、コマのような動きで俺の方へ転がってくる。
その動き早いが予想しやすいので俺はうまく避けたが、中ボスが触りずらいボールの中に入るとは思わなかった。ボールの転がり方と触っても効かない可能性があるのでこれはかなり困ったことになったな。
俺はこの転がるクマが疲れて止まるか、何かのアクシデントで早く動けなくなるまで避けることに集中することにした。
“こんなに動き回るクマがいるなら手刀マンでもきつそうだぞ”
“おお、鬼人仮面もこれに困って避けてるだけだ”
“どうやって倒すんだろうか”
“二号の出番はあるんかな”
“カメラマン鬼人仮面を助けてやれ!”
転がるクマは何度もこの部屋中を動き回り、やがて地面はクマの転がった衝撃でボロボロと板が剥がれ始める。
俺もこの動きに困惑しながらかろうじて避けていた。しかし、このままでいけばクマはいずれ止まるだろうと感じた。
なぜならクマの少し荒々しい動きによって床にあった板が剥がれ始めていたので、先程のような勢いを保つことは難しくなっていた。時々剥がれた板にぶつかって勢いが軽減されていた。
「そろそろじゃないか?いくら早くてもここでおしまいだ」
クマの速度も落ち着いたので徐々に走って避けるのをやめ、かっこよくゆっくり歩いて避け始めた。
“鬼人仮面も余裕そうだ”
“やっぱりプロはすぐに相手を見極めれるんだな”
“さっきのような初見殺しみたいなスピードじゃないからいける”
“あの転がるクマ勢いが減ってるぞ”
“がんばえー”
俺は優雅にスマホを取り出してコメント欄を確認し、そしてもう一度オーラを体にまとわせる。
「来い、ボールクマ。この動きで止めてやる」
カンフーのようなポーズを取ってボールが今度来た時に止めようと無茶をしてみる。今までこういうでかいのを止めたのは何度もある。バッファローのようなでかい突進するモンスターを止めたり、早すぎる虫のようなモンスターを適当に手を振って眠らせたこともあった。
無茶だと思うが機械を眠らせれるか試してみたいからやってみよう。機械にももしかすると通じるかもしれないからな。
まあ、止められなかったときにナマコさんに止めてもらえるように目配せをして彼女にボールを爆破させてもらおう。
そしてクマは俺に向かって転がり、俺はそれを体で受け止めようと大の字で後ろに押されながらそのボールを止めることに成功した。
機械にもこれが効いたようだ。と思いながらボールの中を覗くとクマは操縦桿を握ったまま眠っていた。
「成功だ、これでこいつもおしまい。このまま下がってボスに会いに行こうか」
俺は止まったことを確認してボールの上から降りた。ふう、機械を眠らせれるかを試してみたが、成功したな。でもこれは中のクマを眠らせたから止まったのか?
“思ったよりあっさりと勝っちゃってる”
“これ鬼人仮面実は敵なしでは?”
“他の有名配信者と戦闘したら普通に勝ちそう”
“未踏破とは言われてるけど実は何回も来てそう”
“強いし血も出ない!子供に優しいチャンネルだ”
コメント欄を確認すると絶賛の嵐だった。それを確認した俺は一度ほっとしてナマコさんについてくるよう手を振る。
(す、すごいね。ほとんど魔法を使ってないのによく勝てるよ)
(いや、ただ運がいいだけだよ。ほら、早く下の階行くよ)
(わかった。)
ナマコさんと軽い会話を交わして、開かれた次の階層への扉に入って下に降りる。
下はボス部屋に直結していたようで、俺はしばらく進んでいるとすぐにボス部屋だと思われる禍々しい部屋についた。
「うむ。おかしいな?どうしてボス部屋に繋がってるんだ?視聴者諸君はどう思う?」
中ボスの次にすぐボス部屋という話は今までダンジョン攻略をしていた時にあまり出会わなかったことだから俺はやや困惑しながらコメントに質問をする。
“さっき一階でやった事が発動条件だったり?”
“中ボスからすぐボス部屋とかすごいダンジョンだ”
“中ボスからボス部屋ってVIP待遇みたいでいいね”
“早くボスをちゃちゃっと倒してくれ”
“地味に無傷で勝ってきたからそのボーナスなのかな”
何となくいい感じの考察がコメント欄で繰り広げられていた。俺はそれを見てふむふむと思いながらボス部屋に入った。
「面白い考察だ。参考になる。だが、ボスがすぐに出てくるというのは手間暇省けて楽だ」
存在しないバンダナを巻くポーズをして、扉を開けて中に入る。
いたのはクマより大きいサイズをした大太刀を持った鎧のクマだ。見た目からして完全にボスで、俺と似たような仮面を被った大将らしい鎧を着ており、鎧からはみ出た茶色の毛がないとクマだと分からなかった。
「お手並み拝見と行こうか」
正直あんな大きな太刀を持っていると俺も俺で接近しずらいんだが、死なないことを祈るしかないか。と思いながらクマに立ち向かう。
クマもこっちに意図を理解したようでその剣を俺に向けて振りかざす。
ガシャンンンンと勢いよく太刀が床に叩きつけられる音が響き渡る。
ちょっ、早い!
さっきの中ボスと比べてこっちは剣だから攻撃の来る速度が早すぎるだろ。
「カメラマン、これは君の助けが必要になるかもしれない」
ナマコさんの方を見ると、彼女は少し慌てながら声は出さずにオーケーと手でポーズを取った。
俺は息を吸ってこのボスクマと戦うことにした。うまく行けばいいが。
手刀マスター〜眠らせてるだけの男がつよつよ美少女配信者を助けるとバズって不殺の聖人と勘違いされるようになってしまった〜 べろちえ @veroche
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