第八話 中ボスに遭遇

 最上階でそこにいたクマを倒し終えて、宝と言っていいのかわからないものを拾って俺は深部へと向かっていた。



「しかし、モンスターが思ったより少ないな」



 上のフロアにいたモンスターを全て倒してしまったからか、下に行くに連れて遭遇するクマの数が少なくなっていた。二階はまだいたが、三階に来るとほぼだだっ広いだけの洞窟になっていた。



“手刀マンやりすぎて下の階層にいる熊も呼んじゃったのか?”

“色々と規格外すぎるわw”

“これじゃあボス一直線じゃねーか”

“鬼人仮面みたいな強者どこに隠れていたんだよ”

“鬼人仮面強すぎるwww”



「確かに、下の階層のやつらを呼び寄せてしまったかもな」


 経験則上、そういうことは何回かあった。主には集団意識の強いモンスターのダンジョンで眠らせていると気づけばそこの階層にいたメンバーを全員撃破したことがある。



 だからきっとこれもそういうことなのだろうと考える。



「そういえば一つ忘れていたことがあったな。ついでだ、タイトル通り彼女をここで紹介しよう」


 パチンと指を鳴らしてナマコさんに指示を出す。



“お、ついにか!?”

“新メンバーきたああああああ”

“忘れてれたと思ってた”

“彼女って、女なのか!?”

“新メンバー!新メンバー!”



 ナマコさんはカメラを俺にひょいっと渡して外で待機していたルクスを召喚した。一応距離はあるが、この程度の距離だと人を召喚できるらしい。聞いたところによればこういった転移魔法はかなりの難易度らしいが、それをいとも簡単にできるナマコさんはさすがです。俺もこういう魔法を使えるようになりたいな。



 そしてルクスには今回、俺に似た鬼仮面とフードやタイツを着させていた。俺と違う、あまり目立たない――いわゆる軍人のような洞窟向きのカラーリングがされた服だった。俺としては少女にこれを着させるのはちょっと気が引けたが、本人はこれがいいと気に入っているから俺はひとまず着させている。



「これが新メンバーである鬼人仮面二号だ。まだ小柄だからこう見えてかなり戦闘力があるんだ」

 ルクスに戦闘なんてさせたことは一度もないがひとまず俺はそう紹介してみた。ルクスは俺が言い終えると同時にカメラに現れ、カメラの奥にいる観衆に向けて軽く手を振った。



「お兄さんお姉さんこんにちはこんばんは!私は鬼人仮面二号です!二号と呼んでください!」

 ルクスはカメラの前で両手を振ってコメントに挨拶をした。



“かわいいね二号ちゃん”

“新メンバーだけどなにをするんだ”

“新メンバーにロリっ子とか手刀マンどういう知り合いがいるんだよ”

“オヂサンに仮面の下を見せてくれナイ?”

“可愛いけど仮面が怖い”



 どうやらこの新メンバーはみんなに好評らしく、少し退屈な洞窟の探索について語っていたコメント欄の流れが一気に早くなっていた。



「はは、視聴者の諸君はこの子のことがそんなに気に入ったのかい?この子はね親戚から預かってる子でね。見た目のわりには戦えるんだ。今回は私のダンジョン攻略なので出番はないが、君たちにはいつか彼女が戦う姿が見れる日がくるであろう」



“手刀マンがこれなら二号は絶対強いな”

“そんなに強いのか!?この子”

“鬼人の家庭環境が知りたい”

“どこの家庭に戦闘できる子供がいるんだよ”

“その日が早く来てほしい!”



 そうやって新メンバー紹介は終わり、俺はモンスターの少なくなったダンジョンを奥へ奥へと進む。



 道中にいたクマは大した障害にはならず、俺は先程と同じように指を振ってそれらを眠らせていった。



 そしてようやく俺は中ボスの出る階層についた。道中にクマほとんどいなかったので、ここまで簡単にやってきていいのかと思いながらコメントと軽い会話をしてみる。



「諸君は中ボスが何か知っているか?」



“中ボスって地味に情報無いよな”

“ダンジョンに行かないのでわからない”

“確か一階層にいるクマの上位互換でしたっけ”

“早く中ボスを見せてください!”

“中ボスはどんな感じなのだろう”



「未踏破だから情報がないのは当たり前、か。すまない諸君、いらない質問をしてしまった。」



 入り口と同じように質問をしたが案の定解説コメントみたいなのがなかった。まあ、ゲーム配信じゃないからそういうコメントが少ないのは当然か。そう思いながら、俺はキャラ設定を守るためにここのダンジョンのことを全て知ってるかのような口調でコメントに反応した。



「しかし、情報がないことは全く問題ではない。なぜなら彼らは俺にとって取るに足らない上にいるモンスターと変わらないただのモンスターだ。一瞬で方をつけてやろう」



 中ボスのいる部屋に入ってようやく中ボスに遭遇した。そこにいるのはクマはクマなんだが、鉄のボールの中に入ったクマがいた。そしてこちらを確認するとそれはボールの中に入って勢いよく転がりだした。



 ぐるぐると部屋中を転がりながら流れに任せて俺の方へ動いてくる。俺は急いで避けたが、まさか中ボスがものに入るとは思わなかったから、これは少し困ったことになったな。



 これじゃあ一発で倒せないが、どうしたものか。




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