第七話 フロア一掃

 目の前には鎧を少し着けた、例えるなら足軽が着る装備とも呼べるだろう。そんな装備をしたクマが立ち塞がり、俺と格闘したそうに目の前にいた。



「クガァァァッ」


「さて諸君は、ここにあるこのモンスターは何だと知っているか?」


 威嚇する足軽のクマをよそに俺は視聴者に少しだけ質問をしてみる。



 説明書読まないたちなので、普通にこのダンジョンに出現するモンスターのことを全く知らないことに気づいたからな。こいつも急に襲いかからないようだから、一応聞いてみた。



“ボスの息子?”

“え、わからないです”

“鎧熊の配下?”

“オーラとか使うんですか?”

“でっかい熊さんだよ”



 ダメだ……全員知らないみたいだ。いくら俺がある程度人気を得たとしてもコメント欄にはまだそういう賢い人はいないようだ。



「まあいい、気にしないでくれ。知らなくてもこんなのは指一本で足りる」



 指を空に向けて掲げ、オーラを指に纏わせて、目の前にある足軽のクマに立ち向かう。



「ガグオォォオン」

 そして咆哮してこちらに走ってくるクマに向けて、掲げた指を刀のように振りかざし、文字通り指一本で眠らせる。



 するとそのクマは攻撃をしようと腕を振ったが、反応できず床に倒れて眠り込んだ。



「まあこんなもんだろう」



“指一本で撃破!?”

“血が出ない子供に優しい配信”

“オーラの力すごい”

“蜘蛛倒したんだからこれぐらいはいけると思ってたけどそんな余裕なのか!”

“このオーラってどういう効果があるんだ”



「どうやら好評のようで良かった。それではここ一帯の熊を全て打ち倒してみせよう」


 このまま下の階に直行、なんていつもはやっていたけれど、ここはひとまず視聴者のために映える配信をやっていこう。



「そういえばカメラマン、君は熊をおびき寄せる魔法を知らないかね?」



 一応今回のためにカメラマンを雇った。というのは嘘で、念の為ナマコさんに何か起きたときの保険として手伝いをさせて貰ってる。



(あんた私に話かけないでよ)

 焦った尾辻は小声で反応してバツ印をする。



「さすがにないか。なら一匹ずつ倒していこう」



“全部倒そうだなんてすごい自信”

“カメラマンさんお疲れ様です”

“全部倒したらとかありそう”

“カメラマンさんいつも鬼人仮面に振り回されてそう”

“カメラマンさんどういう人だろう”



「特別報酬か、それはあるかもしれないな」

 コメントを見ると気になることが書かれていた。俺もフロアに居るモンスター全部倒したことはないから、本当にそれはあるかもしれないと思った。



 俺はひとまず、辺にいたそこそこの鎧を着たクマたち、俺は足軽熊と呼んでいるそいつらを一匹ずつ眠らせていった。



 絵面としてはそこまでよいものではなく、ただ俺がオーラを纏わせた手をクマにハイタッチしてる。いわば鬼ごっこのような状態が始まっていた。



“鬼人仮面強すぎて捕食者になってるじゃんww”

“強すぎるよこの男”

“調べたけどここの熊普通に下級冒険者は倒せない強さしてるのによく倒せるよ”

“まじか格が違いすぎるぜ手刀マン”

“熊が逆に可哀想”



「全く、最初はこんなに好戦的だったものがこうも逃げ腰だとはつまらないものだ」

 強者ぶったセリフを口に挟んで、残ったフロアにいるクマたちを続々と叩いていった。



 少しクマが起きてこないか心配しつつも全部眠らせることになった。眠らせてるだけなので動物愛護団体も悲しまないだろう。何故か知らないがモンスターを倒さずに眠らせるだけでもダンジョンはこれを倒した判定をしている。俺としては嬉しいことだが、ダンジョン自体のメカニズムがちょっと気になるところだ。



 するとガガガッと近くの扉が開く音がする。



 おいまじか、冗談で言ってみたもののまさか本当にあるなんてな。



“鬼人仮面すごすぎる”

“全部倒すと報酬が貰えるのか!”

“ひとつの階にいるモンスター倒すとこんなもん入手できるのか!?”

“これを知ってるなんて手刀マンなにもんだ”

“宝を見せてくれ!”



(え?ダンジョンって一階層でも全部倒すと特別報酬出るの?)

(ごめん、俺も初めて知った)

 ナマコさんも視聴者と同じように驚いてるみたいだった。俺も適当にやったことがまさか本当に起きるとは思わなかったよ。



「そうだな。諸君、報酬が何か見てみようではないか」

 カメラマン(ナマコさん)を部屋の前に誘導して、念の為部屋の中を映さないようにさせる。もしこれで人の死体とかあったらたまったもんじゃないからな。



 中にあった宝箱――まあ、見た目は本当にただの木の箱だがその中を覗くとそこには子供用、というよりそこまで大きくないサイズのいわゆる大将が着そうな鎧があった。



(これ誰が着れるんだよ)

(着てみたらどう?案外似合うかもしれないよ)

(なわけあるか!)

 そう心の声を漏らしながら返事して鎧を取り出してカメラの方に向ける。



「あったのは子供用の大鎧だ。少し興ざめになるな」



“めっちゃ小さいwww”

“誰用の装備だろう”

“思ったより普通だった”

“小さいけどかっこいいね”

“それを売ってくれ!”


「売りはしない。一応記念になるからな」


 反応もまあ、俺と似たようなもんであり、俺も苦笑いしながら部屋から出て次の階層に向かうことにした。

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