第六話 かっこつけていこう
「やあ諸君、鬼人仮面だ。今回はテスト配信として鎧の熊が出ると噂のなんちゃらダンジョンにやってきた。前行ったダンジョンと比べて数県離れた遠い場所で少し時間がかかったが、じっくり視聴して欲しい」
“新メンバーって誰が来るんだ”
“まさかナマコとかじゃないよな”
“鎧熊を倒すのか、でも手刀マンなら勝てそう”
“配信者最強の鬼人仮面さんの配信待ってました”
“テスト配信として選ぶ場所じゃないwww”
タイトルは【テストダンジョン配信します。新メンバーもいるヨ!】
そしてコメントは――
どうやら大好評だな。誰か俺の配信の宣伝でもしたのか?
この前の説明配信から数日経ったけど、今日俺は鑑賞性の高い配信を実行するためにナマコに協力させてもらうことになった。
◇ ◇ ◇
「つまり、道也くんは配信で手刀以外にかっこいいことをしたいってこと?」
配信ではナマコとしての尾辻が回復魔法を使ってる所を一度見ていなかったけど、彼女はどうやら回復魔法をかなりの度合いまで習得していたようで、蜘蛛に負わされた怪我は数日で全開していた。さすが最高峰の魔法使いだ。魔法関連ならなんでもできるのかよ。
「そう!だから尾辻さんなんか案をくださいよ」
「ちょっと道也、教えを乞う時だけさん付けしなくて良くない?」
俺たちは家のにある小さなコタツで今後の配信予定について軽く駄弁っていた。
まだ寒くは無いけど撤去するのがめんどくさいから置いてるだけの、そんなコタツだ。
「まあ、そこは気にしないでくれ!俺の考えとしては俺が技を繰り出す瞬間に尾辻が映える魔法を打って見栄えのある配信にして欲しいんだ」
「道也、それは私にとってかなり難しい注文だね。いわば私の魔法で楽して人気稼ぎしたいってこと?」
机の上に置いてあるコタツはつけてない雰囲気だけあるみかんの入ったカゴの中から、みかんを取りだしてその皮を剥きながら尾辻は話をする。
「いや違うんだ。ほら、尾辻も怪我ということにして数ヶ月休むつもりなら魔法とかあまり使わなくなるよね。だからその間の調子を維持するために手伝って欲しいんだ」
「よくもそんないい加減言い訳を思いつくね……」
彼女は呆れながら剥いたみかんの一部を俺に分けて、残った分をを一房一房ずつ食べていった。
「それで、何して欲しいの?」
「まずはオーラだね、強者ってオーラ出るわけじゃん。こう技を叫んで辺りから青か黄色か赤色のオーラ出して攻撃する、かっこよくね?」
スマホでアニメとかでよくあるキャラクターのパワーアップする瞬間の画像を検索して、それを見せる。
「ねえ、それいる?どこかの偉い教授が君のことを動画で解説されていたけど君は日本最高峰、いや世界最高峰の可能性がある状態異常使いなんでしょ?あってもなくても変わらないなら私がやる必要ないよね」
その画像を見た尾辻は口をへの字にして、バタバタとこたつの中にある足を芦屋に向けて蹴る。
「ちょ、蹴らないでくれ!そして、そこをどうにかしてくれ!だって男は誰だってこういうのに憧れるんだよ!ほら、魔法のプロフェッサーであるナマコさんお願いします!」
「私ナマコさんじゃなくて本名で呼んでって言ったよね」
「ごめんなさい、尾辻!俺のためにオーラのようなのを出す魔法を教えるか使ってくれ!」
「意味がないのと魔力が無駄になるので絶対にダメです」
二人がすごくくだらないことで喧嘩をしていると、寝ていたルクスが押し入れの中から現れた。
「うるさいよ!お姉さんお兄さん!」
いつものようにゲーミングカラーの髪をなびかせながら同じようにコタツの中に入ってきた。
「ごめんな、いつも通りただの痴話喧嘩だ」
「ち、痴話喧嘩!?あなた痴話喧嘩の意味わかってる?」
「え?普通に仲良い同士の喧嘩をそう表現するんじゃないのか?」
「はあ……この意味ちゃんと見てね」
尾辻は素早くスマホでタイピングして痴話喧嘩の意味を説明したサイトを俺に見せる。
「こ、恋人同士の喧嘩!?意味全然ちがうじゃねーか!」
「あなた時々思うけど所々世間知らずすぎるんだよね。どうして状態異常無効であるはずのボスに君の手刀が効くのか聞いても何も分からないって言うし」
彼女はジト目で俺を見つめて文句を口にする。
実際、ボスが基本状態異常効かないっていうのは彼女から教えられるまで知らなかった。そもそも俺は今までダンジョンを全て触ってクリアしてきたからなおさら知らなかったけどね。
「まあ、それはおいといて。はたから見たら人の家にいる尾辻はどう見ても同棲してるカップルにしか見えないよ」
「ええ、ただのシェアハウスだよこれは」
「ほら、ここに子供もいるわけだし」
みかんをひとりで食っていたルクスを俺の方に寄せてみた。
実際、尾辻はワープ魔法があるからバレないだろうけど、人によっては男と歩いてるところ見られてそのままスクープとして報道されたりするから危ないよな。
ましてや男と住んでるのは黒。まあ俺は住んでいいと思ったから住ませてるけどね!
「き、君って、そんなに、私と恋愛関係に、なってほしいの?」
一度深呼吸したあと、尾辻は目を逸らしながらたどたどしく尋ねる。
「いや別に」
「じゃあそういうことを言わないでよ!変な事考えちゃうじゃん!」
すぐに断言した芦屋に尾辻は拍子抜けした顔で恥ずかしさを隠すように反論する。
「なんだよ変なことって、なんも考える必要ないだろ」
「あんたねぇ……」
そして尾辻はもう一度呆れた顔で残ったみかんを一気食いする。
「おいおい、それ大丈夫なのか?」
「や、やばいかも」
食べ物って一気食いするもんじゃないだろ……と俺は思っていたら、案の定尾辻は机の上でむせた。
「じゃあルクスの顔に免じてオーラ付け頼んだぞ!尾辻」
「頼んだぞ!」
「……わかったよ」
ルクスの顔を見て尾辻はなくなく賛成した。
◇ ◇ ◇
「よし、では君たちに新技を見せてあげよう。これは俺の強さの秘密でもある」
そして一階層に入った俺は視聴者にナマコさんに教えられた魔力を身にまとわせる術を見せる。
“これはなんだ?”
“白いオーラ?”
“またダンジョン界を湧かせるぞ”
“鬼人仮面に似合います!”
“すごいオーラだ”
彼女いわくこれは基礎中の基礎だからほとんど意味ないしただの魔力の無駄と言ってはいたが、そんなことはない。かっこつけれるからだ。
視聴者の反応もいいので俺は先に進むことにした。
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