旅路

凪 志織

旅路


 変わらない景色が流れていく。

 あまりに同じ景色が続いているので、実際は進んでおらず同じ場所に停滞しているのではないかと時々思うことがある。


 孤独なんて知らないはずだった。

 意識が芽生えた時からずっと一人だったから。

 なのに時折、私の中に響いてくる何かがある。

 何を伝えようとしているのか不明だがノイズのようなその音は様々な周波数で私に呼びかけてくる。

 そのたびに私はなぜか懐かしさを感じるのだ。

 私に故郷などないのに、帰るべき場所があるような気がして。

 だから私はくたばることなく旅を続けることができている。


 目的地はもうすぐ。

 半径約160メートル、長径約500メートルの小惑星である。

 体の衝撃を予期し緊張が走る。

 

 安全に着地できる地点を見極め慎重に降下する。

 機体底への初めての感触。

 とらえた土を私は大事に胸の中へしまった。

 また、私の中であの声が響いた。今までで一番強く。

 なぜかはわからないがとても喜んでいるような、そして、私も嬉しくなった。


 戻ろう、この軌道上に帰るべき場所がある。






 星の瞬きを数え、時折流れるノイズに耳を澄ましながら、宇宙空間を漂い続けていると、青い星が見えてきた。

 初めて見るのに知っているような懐かしい場所。

 近づくにつれ思い出す。私はここへ帰ってくることが目的だったと。

 機体はもう限界を迎え、いつ機能停止になってもおかしくない。

 でも、まだあと少し、頑張りたい。この星の地に降り立つまでは。


 星の大気圏に突入する。機体が少しずつ燃え、部品が剥がれ落ちていく。地上が見えてくる。

 あと少し、もう少し。意識と体が破片となり散っていく。


 すっかり小さくなってしまった私は柔らかくあたたかな砂に受け止められた。

 もうこの体は動かない。


 私は自分が降ってきた方向を見上げた。

 そして、思う。

 ああ、この星は空も青いんだな、と。





 どのくらいここにいたのかわからない。

 いつの間にか意識を失っていた私は誰かの声で目を覚ました。目の前には初めて見る生物がいた。

 何と言っているのか不明だが、彼らは様々な周波数の声を上げ、中には顔から水滴があふれ出す妙なやつもいた。

 そして、気づいた。

 私の中で響いていたあの声と同じだ。あれは彼らの声だった。


 ずっと一人だと思っていた。でも違った。仲間がいたのだ。

 私は彼らに信号を送った。

 同じ言葉を話すことはできないがきっと伝わるはずだ。彼らの声が私に届いていたように。


「ただいま」と。

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旅路 凪 志織 @nagishiori

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