第22話 こたつ作り
意外とできるじゃんということで依頼を二つとるようにしてはや一ヶ月。気温が下がってきた。冬だ。
「寒くて布団から出れないです……」
「気持ちは分からんでもないが、着替えた方が暖かいぞ」
「頭ではわかっていても体は動いてくれないんですよね」
でも本当にいい加減布団から出ないといけない。
「えいや!」
ベッドから飛び退き急いで着替える。
「ひゃあ。寒いですね」
肌が凍りそう。乾燥してパッサパサになってしまった肌が凍りそう。
とにもかくにも寒い。
「こたつが欲しい……」
「前に炭花と作っておったのぅ。今日は休みゆえもう一度試してみてはどうじゃ?」
日にこなす依頼の量を増やす代わりに毎週一日休みを取ることにした。
その日は何をするも自由。訓練もお休みで、宿でゴロゴロしたり趣味のものを作ったりとのんびり過ごしている。
「炭花ちゃんが起きたら聞いてみます。もうそろそろ来ますかね」
「そうじゃのぅ。炭花はモカ同様に朝は布団から出れぬからもうしばらく待つことになると思うぞ」
「そうですか」
寒いのは苦手なんだ。
やっぱり炭花ちゃんは猫っぽい。きっとコタツムリになる。
「おはようございます」
真羽さんがやってきた。炭花ちゃんを背負っている。
……なんで?
「あのまま放っておいたら夕方まで起きそうになかったんで連れてきました」
「寒いにゃあ……布団が恋しいにゃあ……」
声が震えている。本当に寒そう。
これは真面目にこたつを作ってみるのが良いかもしれない。
でもその前に。
「朝食じゃよ」
姐さまが作ってくれた朝ごはんを食べなければ。
今日のメニューは食パンとコーンスープ。そしてベーコンとキャベツのサラダだ。
「いただきます!」
みんなで揃って食べ始める。
私は湯気が出ているコーンスープに口をつける。
「体の内側からあったまる」
「ポカポカだにゃあ」
炭花ちゃんも幸せそうだ。
良かったね!
「このサラダ美味しい!」
真羽さんもニコニコだ。
姐さまも釣られてニコニコしている。
目の保養だ。
でもあまり見すぎるわけにもいかないのでサラダを食べてみる。
フォークを刺すとキャベツがシャキシャキなのがよくわかる。
「あ、本当だ。美味しい」
コショウが良い具合に効いていて美味しい。
さすが姐さまだ。お料理上手。
「ありがとうのぅ」
今の姐さまの笑顔で料理が100倍美味しくなった。幸せだ。
「ごちそうさまでした!」
美味しい朝ごはんを食べ終えたので、逃げようとする墨花ちゃんを引き留める。
「もう一回こたつをつくるのにゃ?」
「そう。もう一回。今度こそ成功させる」
私は姐さまが最近ちょっと寒いと思っていることを知っている。
そんな姐さまのためにこたつを贈りたいのだ。
「ほら。墨花ちゃんもあったかいこたつがあると嬉しいでしょ?」
「それはそうにゃあ」
「朝起きたあともう一度暖かいところに入れるんだよ」
「……ものすごく魅力的にゃあ。わかった。こたつを作るにゃ!」
墨花ちゃんも乗り気になってくれた。
よかった。
「じゃあちょっとだけ待っててね。新しいこたつ机を引っ張り出してくる」
「わかったにゃあ」
さっと【締切前の部屋】に入り前の机のデータを探し出す。
「今度の休みにでも整理整頓しないとやな。ファイルがぐちゃぐちゃで目当てのものが中々見つからへん」
ここで検索すれば良いと思った人もいるだろう。
だがたいていのファイル名は「無題.001」とかなのだ。どれがなんのファイルかわからないのだ。
検索を使うわけにもいかず、一つ一つファイルを開いて確認している。
「あー! あったあった。君はこんなところにおったのか。もう探したんやで」
見つけたファイルを少し反射してから印刷する。
ちゃんとできてる。
「お待たせー!」
といってもそんなに時間は経っていないはずだけど。
部屋から出ると姐さまの羽織を借りた墨花ちゃんがいた。
「墨花があまりにも寒そうにしておるからのぅ」
などと姐さまはおっしゃっている。
ちょっと、いや結構羨ましい。
姐さまの羽織、すごくいい香りがしそう。
それに姐さまの体温が残っていて、暖かそう。
「どうやら私はちゃっちゃとこたつを完成させなあかんみたいやな」
思わず関西弁が漏れる程度には嫉妬していた。
「頑張るにゃあ」
呑気に話す墨花ちゃんが恨めしい。
でもその気持ちは全力で隠してスイッチをセットする。
「前より小さめの火力でお願いします」
「任せるのにゃ!」
墨花ちゃんは一つ深呼吸をするとスイッチに触れ、力を込めた。
なんとなく駄目な気がした。
「試してみるにゃ!」
墨花ちゃんが意気揚々とこたつをつける。
だが。
「なかなかあったかくならないね」
「もうちょっと火力を上げないとにゃあ」
この調整がなかなか難しい。
適切な温度になるまで何度も何度も試行を繰り返した。
そしてついに完成した。
「この温度なら安全に使えるね!」
「やっとできたにゃあ」
墨花ちゃんはお疲れのようですぐにこたつの中に入った。
幸せそうに丸くなっている。
やっぱり猫だ。
「あ、これを姐さまに返してきれくれるにゃ?」
そう言って墨花ちゃんは私に姐さまの羽織をかけてくれた。
「そのまま姐さまのところへ行くにゃあ。そのほうが姐さまが喜ぶにゃあ」
「どうしてそう思うの?」
「それは秘密にゃあ。でも行ってみればわかるにゃ!」
どうやら墨花ちゃんはここから動く気はないらしい。
仕方なくそのままの格好で緑茶を嗜む姐さまの元にいくとやけに可愛がられた。
嬉しい。
百合モデラー ──転生先でCGの技術を使って推しと快適に暮らします── 橘スミレ @tatibanasumile
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