第21話 ノリで依頼二つ

 今日はまたいつも通り依頼をもらいにいく。

 姐さまにえらんでもらったコートはあったかい。


「どれにしようかな」


 頑張って稼いで、夢を掴んで、そこで姐さまに告白する。


「姐さまと釣り合う人になれるよう頑張らへんと」


 今日は活字の制作依頼を受けることにした。

 報酬が結構良いし、簡単に作れる。


「サイズ的に小説か何かやろうな。何を書きはるんやろうか」


 色々と考えながら宿に戻って制作に取り掛かる。


「まずはアルファベットをおく」


 わざわざ自分で形を作らなくても「テキスト」という名前のも物体を出して、好きな文字を打ち込めば勝手に形になってくれる。


「これを反転してと」


 印刷用なので反転する。

 これを忘れると大変なことになる。多分。


「あとはこのアルファベットに厚みをつけて、指定のサイズの立方体につき刺してやったら完成」


 多分これで大丈夫だろう。

 これを全部のアルファベットのぶん作って、必要な数を印刷してやったら出来上がりだ。


「あれ。アルファベットって何個あったっけ」


 A、B、C、D……。指折り数えてみると26個ある。

 大文字と小文字の区別もあるので倍の52個、いや他にも記号が必要だからもっといる。


「地味に面倒やな」


 今更ながらこの依頼をえらんだことを後悔する。

 過去の自分にうだうだと文句を言いながら製作した。


「あとはこれを指定の数だけ印刷してと」


 表と照らし合わせながら印刷する。

 細かい文字に殺意を覚えつつもなんとか必要数印刷できた。


「終わった!」


 大変な仕事が終わるとスッキリして疲れも吹き飛んでしまう。

 これならもう一個依頼を取っても大丈夫そうだ。

 取ったら後の自分が後悔しそうだが気にしない。


 私はルンルン気分になりながら商業ギルドへ戻り、納品する。


「はい。OKです。これが報酬です」


 いつものお姉さんからいつもよりちょっと多めの報酬を受け取る。

 この瞬間がたまらなく好きだ。

 頑張りが報われた感が良い。


「このままもう一個行っちゃおう!」


 私は再び依頼を探す。


「良い感じの依頼ないかなー」


 いわゆる深夜テンションだったんだと思う。

 だからあんな変な依頼を取ったんだと思う。


「エターナルウンタラカンタラが出そうなグラス?」


 厨二病感漂う依頼だった。

 かくゆう私も厨二病患者だったが、こういう系統ではなかった。

 自分を超絶美少女だと思って推しとキャッキャうふふとハーレム生活するタイプだった。

 その上その欲求は全て小説にした。しかも界隈にいる同志諸君が消費してくれたので大したダメージもない。

 対して依頼主は大変そうだ。黒歴史の消費を頑張ってほしい。


「エターナルウンタラカンタラは確か凍るやつだったはず。まあ、なんとなくで作れるか」


 なんとなくの気分で依頼を受けることにした。


「どんなデザインがいいだろうか」


 グラスの中の水が凍ってる感じにしたらいいだろうか。

 いやそれは面倒だし地味だ。

 面白くない。


「そうだ。包帯が巻かれた右手からグラスの中の液体が出ている感じにしよう!」


 腕には包帯を巻いた方が雰囲気でる。多分。

 エターナルを出せる人間はきっと右手に暗黒的な何かが宿っててそれを包帯で抑えてる。

 包帯をちょっと解けた感じにすればもっといいかもしれない。封印が解けた的な感じになる。


 紙にイメージを書いてみる。


「グラスのところにもなんか強大な力ですよアピールをさせた方がいいな」


 液体が入る部分に「シュババー」ってやつと「グウィングウィン」なやつを書き足す。


「こんなもんか。中々にそれっぽくなったんじゃないだろうか」


 いい感じにそれっぽいデザインになった。

 きっと依頼者も満足してくださるやろう。


「ってこれを今から作らなあかんねんな」


 作るところが多い。正直めんどくさい。

 でも今からデザインを変えるつもりはない。

 面倒だからと簡単なデザインにしてしまっては依頼者の厨二心を満たさないと思うのだ。


「よし。いっちょ頑張るか」


 私はマウスを手に取った。


「ひとまずグラスを適当にいい感じに作っちゃおう」


 円型を引っ張ったり伸ばしたりしてグラスの形にする。

 そしてかっこいいエフェクトっぽいのを付け加える。

 これだけでもすごくそれっぽい。


「そして、グラスの足の部分を取って、ここに手をつけないとね。……手か」


 手。それは多くの絵師・モデラーを苦しめてきた存在だ。

 大福に芋けんぴを5本刺したところで手の形にはならない。

 親指という変わり者がいるからだ。あれは他の指と生え方が違う。

 そして関節が多い。指1本に対しで3つも関節があるのだ。

 複雑ったらありゃしない。


 とにもかくにも手を作るのは面倒なのだ。


「作るか……」


 うだっていても仕方がないので早速製作に取り掛かる。

 マウスを持って、自分の手と睨めっこしながら造形を始めた。


 ……10分後。


「なんで人の手はこんな複雑やねんボケ!」


 ブチギレていた。自らの手に文句を言っていた。

 手の難しさ、わかっていただけただろうか。


「もう嫌だよー。手とか嫌いだよー」


 うだうだと文句を言いつつ、自分の手の構造に切れて殴りつつ、それでも作業を続ければそれらしい手はできた。


「やっとやぁ。面を複製して伸ばして……」


 包帯は簡単にできた。

 手を元にちょっと大きくしてふわっとさせたらOKだ。


「もうちょっとキラキラさせたらいい感じ」


 やはりキラッキラなエフェクトがないと厨二っぽくならない。

 厨二病患者にとってエフェクトは命だ。


「これで完成かな」


 エターナルなグラスをいろんな角度から確認する。

 立体物なので一方向からイケてみえても、別の方向からみてダザかったらダメなのだ。失敗作なのだ。

 だからマウスをぐるぐる回して確認する。


「うん大丈夫だね。納品してこよう!」


 受付のお姉さんに生暖かい目で見られた。酷い。

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