第5話
冷めてしまった紅茶を口に運び、アリスは時計に視線を落とした。次のお茶会までは、まだ時間がある。
「それにしても、本当に同じことを言いに来るとは思わなかったな。だって彼女たち、性格が全然違うからこそ、こんなことになったんだろう?」
「私から見れば、二人ともそっくりよ」
顔も同じ、考え方も同じ、言い方も同じ、歩き方も同じ。
だからこそ反発し合い、自分だけの個性を伸ばそうとして、気持ちがすれ違ってしまっただけだ。
「ねえ、いつになったら二人がそろってこの場に来るか、賭けない?」
「それは、賭けになるかい? だって僕は、北で起きた姉と南で起きた妹に同じことを言ったからね」
丸い世界で正反対の場所にいる双子は、全く同じ速度で互いに右へと進んでいく。
ベッドから右へ進めばソーダの海、キャンディーの花畑、ビスコッティの砂漠にティラミスの湖、フィナンシェの林にバームクーヘンの渓谷。そして反対側のベッドへとたどり着き、再びソーダの海、キャンディーの花畑と続いていく。
「右半分と左半分が全く同じ景色だなんて、二人は気づかないと思うんだ」
「そうね、私もそう思うわ」
アリスはこの日一番の笑顔をペルシャ猫に向けると、スコーンを一口かじった。
双子は素直に、片割れを探すために右へ右へと歩き続けるだろう。この丸い世界で、右に歩いていけばいずれ会えると言う言葉を信じて。
しかし、双子がそっくりであるがゆえに、右に歩いていても出会うことはない。姉が一歩進むたびに、妹も一歩進む。姉が一休みするとき、妹も一休みする。
ここはアリスの夢の中。アリスが双子をそっくりだと認識しているうちは、絶対に出会うことはない。
互いを探すことを諦めたときになってはじめて、この場所で三人そろってお茶会をすることができるだろう。
双子は魔女の夢の中 佐倉有栖 @Iris_diana
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