明日菜 ①


修学旅行のバスに乗って、太宰府天満宮の境内きた。


太宰府天満宮。


学問の神様として有名だけど。祀られているのは、菅原道真。


あたりまえに、いまもむかしも、学問の神様だと教えられて、育つけど。


ー亡くなった人を祀る


不思議な気分に、毎回なる。


あまりにひろい境内は、地元の小さな神社とは違う。


たくさんの私たちみたいな修学旅行生や観光客で賑わっていて、あまいにおいもある。


ー太宰府天満宮名物の梅ヶ枝餅。


あまいあんこのお餅で、参道にも境内にもお店があるけど、それぞれで味が違う。


実家が和菓子屋さんの柴原さんは、すべて食べたい!って言って、あたりまえに班のみんなから却下されていた。


そんなことで時間をとりたくないよね?と私もおもうし、わけてもきっと食べきれないよ?


だって、


ー餅。


お腹にたまるよね?


「まあ、村上が何個か買いに行くって言ってくれたけどね。赤木はめんどくさいって」


自由行動について、学年主任からの注意をききながら、柴原さんがこっそり話す。


まあ、みんなザワザワしているし、先生たちも人目が多い場所であまり怒らない。


お母さんは不思議らしい。むかしは話したりしたら、即おこられた。


むだに注意がのびて、自由行動時間が減った。


って言ってたなあ。いまの先生たちは、年齢で対応がわかれてるかなあ?


って笑ってた。そんなお母さんに、お姉ちゃんが怒ってた。


明日菜へのイジメを、どうにかしないなら、先生なんか信じない。


違うよ?それは。


って、私は思う。私へのイジメは、たぶんなくならないよ?


ー私がこの世界からいなくならないかぎり、きっと。


そう思ってしまうんだ。先生も誰も、家族ですら悪くないよ?


たぶん、私だって、


ー悪くない。


これが特定の相手だと、なにか違うのかな?


ただ、身体が、おもたくなるんだ。


学校に行かなくても、変わらない。家にいても、なんだかきつい。


そう思うんだ。怒ってくれるお姉ちゃんはありがたいけど、なんかもう、


「…つかれた?明日菜?」


柴原さんが少し心配そうな顔で私をみていた。


「あっ、ごめん。考え事してただけだよ」


そう返したら、柴原さんは、今度は、ニヤって笑った。


ーなに?


つい身構える。


「明日菜も村上に梅ヶ枝餅買ってきてもらう?」


「…朝ごはん食べたから、いらないよ」


「あまいものキライ?そもそも朝ごはん、残してたよね?私たちの半分も食べてないよ?」


食べ盛りな中学生を相手に、お宿も張り切ってくれていたから、ふつうに量が多かった。


「私、あんまり、朝ごはん食べないから」


「明日菜、ダイエットの必要ないよね?むしろ、きちんと食べなよ?村上が嫌なら、赤木に使い走りさせるよ?」


「もっとイヤ」


「なら、村上で我慢しなよ?」


「そもそも使い走りなんか、いらないよ?」


「えー、もったいない。明日菜が言えば、ほとんどの男子が言うこときくよ?」


「赤木くん、柴原さんが頼んでも行かないんでしょ?」


「明日菜なら、喜んで行くよ?」


けろっとした顔で柴原さんか言う。


「私には村上がいるし?」


そうニヤニヤしてるけど、私はムッとした。


「柴原さんの彼氏は、赤木くんだよね?村上くんじゃないよね?」


「いいじゃん。村上フリーだし。やさしいし、気がつくし。わりとイケメンだしね。この2日目のフリー行動で、アイツの良さに気づく子たちいるかもだよ?」


「それはー」


なんかイヤだ。けど、彼はやさしいし、噂の先輩の弟だから、顔立ちはー。


「…どんな人?」


一度くらい参加したらよかったかな?話し合い。でも、靴も気になるし、赤木くんたちは苦手だし。


「じゃあ、早く、会いにいこうか?」


いつのまにか、解散のコールがかかってた。


ぼんって柴原さんに肩をたたかれて、私はあせる。


待って、もう?


心臓がドクンと大きな音をたてる。待って?えっ?髪型とかだいじょうぶ?


あさ、柴原さんにセットしてもらってから鏡みてない。


ーって、待って?


いままでそんなこと、気にしたことないよね?


だいじょうぶ。


私は一度大きく深呼吸した。


ーだいじょうぶだよね?


きっと、なんにも変わらないよ。


変わらず、たぶん、淡々とすぎるよ?


ーほんとうに?


私はただ、息を吐く。


あの日、白かった吐息は、太宰府天満宮のあまい空気にまぎれこむ。


息は色づかない。


もう春も過ぎて、季節は初夏を迎えてる。


あの日から少しずつ、私を助けてくれた人。


ー村上春馬、くん。


に、いまから会える。


お礼を言うだけでいいんだよ?明日菜。


そう自分にいいきかせる。お礼だけでいいんだよ?


きっと、それを伝えたら、


ーなにかが終わる?


それとも、


ーはじまる?


「行こう?明日菜。村上のところに」


柴原さんが私の手を力強くひっぱた。

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【中学生編】修学旅行で、学校イチ可愛い子がスカウトされたら。キミに告白される、まえと、あと。大人気女優と平凡なサラリーマンの出逢いの物語。 茶々アルト @anotoa10030113

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