大正乙女と藁人形
あんみつ
第1話
◇
初夏が来ると、あの
たっぷりのレースとフリルで飾られた生地。
柄は
触るとツルツルしていて、毎年、この木のひやりとする冷たさは夏のはじまりの日に心地よかった。
お気に入りの
◇
人力車のカタカタという音を遠目に聞きながら耳元で切りそろえた黒髪を指先で整えると、
お気に入りの風呂敷に、お弁当をいれているので、動く度に少し気を遣う。
今日は、朝から早起きをして
それから、得意の甘い出汁の味のする卵焼きに、キウリの浅漬け。おかかごはん。
卵焼きは、今日の朝ごはんの残り。
「おーい」
「
遠くに見える薔薇色の
「あら貴方、どなたかしら?」
「まあ、失礼しちゃう。私達、同じお教室よ。
緩く巻いた茶髪を”耳隠し”にしている
「あら、そう。それで、私に何かご用でも?」
「用事なんてないわよ。あなたに話しかけたかったから話しかけただけだもの」
よく見てみると、彼女のお道具鞄には気味の悪い藁人形がぶら下がっているようだ。
「あっそう。それ、なあに?その趣味の悪い藁人形よ」
「お父様が外国でのお土産に買ってきてくださったの。とっても可愛いと思わないこと?」
渚は呆れてため息をついた。
「あのねぇ…」
「私、一人でお散歩するのが好きなの。お生憎だけど他を当たってくださる?」
◇
「あ〜あ、つれない人。行ってしまったわ。お昼の時間にもう一度話しかけるんだから!」
「アイスクリーィムって、とっても美味しいです〜」
ミルクの優しい甘さと、アイスの冷たさに、和心は手のひらを頬に当てため息を洩らした。
「これが
◇
バスの中、同じ学校の制服だけれど、見た事のない顔の女生徒が座っていることに気がついた。
初夏の日差しに反射してキラキラ光る伏し目がちな睫毛を見た時、かすかに白ユリの花が、香った。
後の人生で
ふと、彼女は、何か読んでいるようだったが、少女雑誌ではなく文字のギウギウに詰まった純文学だった。
(げっ、文字ばっかりで目が回りそうだわ)
”新しい時代の婦人、淑女として
という見出し見て、少し得意になった。
ハリウッド女優のように耳の辺りでバッサリ切りそろえた黒髪。
それはまさに新しい時代の象徴。
最近流行りの少女雑誌から抜け出したようなその
大正乙女と藁人形 あんみつ @sevruslove
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