終章
第31話 傀儡の森
ざわり。
どこからか風が吹いた。
ざわざわと、草木の葉音が鳴っている。
天蓋は閉じられており、風が吹くはずもない。土埃も、舞いはしない。
〈壺菫〉の透き通った天蓋と、土を除けられ磨かれた〈月光庭園〉の天蓋と、二つの天蓋を通して、月の光が庭に降り注いでいるだけだ。
月光は打ち捨てられたままの傀儡たちを照らしていた。
折れ、割れ、瞼に墨を塗られ、時には髪を抜かれた傀儡たちの亡骸。
そして、葉ずれの音は傀儡たちの中から聞こえていた。
体の割れ目から、緑のものが見えた。
傀儡の中に埋め込まれた種。月光庭園で育てられるはずだった植物たちが、事故からふた月経った今、勝手に育っていた。草が、ざわざわと音を立てて揺れている。
草々は小さな花を付けていた。白、赤、桃、青、紫、黄。
色とりどりの花が、生気に満ちたみずみずしい花弁と葉を揺らしていた。
やがて植物たちは傀儡の中から、瓦礫の間から一気に伸び上がり、茶と灰色の床を緑に埋め尽くして、壁を伝い、月に向かって手を伸ばした。
庭園は、一面の緑と青いきれで埋め尽くされた。
植物の成長はやがて静まり。
月の光に照らされて。
──そっと、小さな森は、呼吸し始めた。
傀儡の森 有沢楓 @fluxio
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