最終話
貴方がもしこの様な立場になった時、どの様な行動に出るのだろうか?
何が正解で何が不正解なのだろうか?
貴方がとった行動は本当に利他的なものであるのか?ただのエゴではないのか?
相手は本当にそれで良いと思っているのか?
正直、今の僕には分からない。
ただ、これ以上彼女の苦しむ顔は見たくない。
ただその一点だけで動いていたんだ…。
今日も夜の静まり返った公園で彼女の髪をとかす。
ふと彼女が口を開く。
「正直、今の店辞めたい。」
少し間をおいてから
「もう、僕は止めないよ。」
これ以上ここで働いていても状況が良くなる事がないと思ったし、現に良くなるどころか悪化の一途しか辿っていない。
彼女は此処で頑張るよりも他の店で頑張るのが賢明だろう。
「でも、後藤さん居るから頑張れるんだ。」
「辞めても会えるし、何よりそれでこれ以上壊れていくのは見たくない。」
「それなんだけど…」
「何?」
「こうやってプライベートでも後藤さんの顔見たら、あの店の嫌な事全部思い出しちゃうんだ。」
一瞬、頭が真っ白になった。
何をすべきなのか、何がハッピーエンドになる選択肢なのかも。
この時ふと思ったのは、彼女を救うにはこの選択肢しかないのかな。と思った事。
「そうか…うん…」
「私を捨てないよね?」
「ちゃんと守るから」
彼女の表情が少し良くなった気がする。
ただ、守るって何なんだろう。そんな事を思っていた様な気がする。
彼女との会話の最中も色々と考えてばかりで途中の会話もはっきりと覚えてない。
そんな他愛もない会話をしていると、
「後藤さんに聴いてほしい曲があるんだ」
「何?知ってる人かな?」
「ミオヤマザキってバンドで最愛って曲なんだけど聞いてみて。」
「分かった帰ったら聞いてみるよ。」
「ただ、あの職場にはもう来ない方が良い。最悪実家ならアイツも迂闊に手を出せないし、家に来るとか言えないでしょ。」
「親には説明するんだ。」
そんな会話をしながら、いつも通り彼女を家まで送った。
その帰り道に小さな公園で一人で言われた「最愛」って曲を聴いた。
涙が止まらなかった。
彼女は薄々気付いてた、僕が思ってる事も、とろうとしてる行動も。
あの時、守るって彼女に伝えた言葉も。
ただ、あの時の僕は守るって何を守るべきなのか?って問いにずっと悩んでいた。
彼女の生活?僕達の関係?職場環境?
僕の導き出した答えは…。彼女の笑顔。
例え僕達の関係が終わりを迎えたとしても、彼女がそれで傷付いたとしても。
きっと、僕の事を忘れるから…。
それは、以前彼女が「記憶障害」と語っていたからだった。
以前、夜のお店で働いていたのは紹介したが、その時に発症したみたいだ。
嫌な事がありすぎて、楽しい思い出は直ぐに消え去っていく。
そんな事をずっと経験している内に症状は悪化したのだと。
LINEで少し間があってから返信がくるのも、LINEなら過去に会話した内容が残っているからだと。
家に行った時も冷蔵庫に紙がペタペタ貼り付けてあったのもそれが原因だったんだ。
あくる日、彼女は無断欠勤をした。
やっと、彼女に平穏な日々がくるのだろうな。と思った。
連絡もとってない。連絡するときっと思い出してしまうから。
途中、彼女と仲のいい人から
「新庄さんからで、気が向いたら出勤する。」と伝えられたけど、
「何の為に俺がここで問題起こしてるか考えるんだ。」って伝えてほしい。
それが最後のやりとりだった。
これで終わった。彼女も僕の事を直ぐに忘れて普通の生活に慣れていくのだろう。
これが正しい道であったとは思わない。
彼女からは捨てた奴。外道とか思われるんだろう。
ただ、僕は恨まれてでも、貴方には笑顔を取り戻してほしかっただけなんだけど。
それから数日経った夜、僕はよく彼女といつも会っていた公園に来た。
思い出に浸りたくもなるもんで。
しばらく歩いていると、目の前から男女のカップルが歩いてきた。
近づくにつれ女性の方がなにやらソワソワし始める。
通り過ぎる時には女性は男性の陰に隠れてしまった。
よく見ると男性の方もよーく見覚えのある図体の大きい男だった。
通り過ぎる頃には、僕の中で何かが崩れ去っていた。
良く聴いていた「最愛」も同じアーティストの「オカルティック69」を頻繁に聴く様になっていた。
晴れのち雨 おけけ @kry003
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