【コミカライズ開始記念SS】魔法を教える

「マリーシャマリーシャ! 戦いに役に立つ魔法を教えて!」


 庭園でのんびりセオドアとお茶をしていると、フィニララが私を見つけて駆け寄ってきた。


「フィニララ、今マリーシャは俺との時間を楽しんでいるんだ」


「えっ。セオドア様との時間を?」


「……何が疑問なんだ」


「マリーシャは私たちとの訓練を楽しみにしてるって言ってた!」


「それとこれとは別の話だろ……」


「セオドア様は気の利いた話は難しいから、訓練の方がいいよ!」


「俺だってマリーシャが喜ぶ話題ぐらいあるぞ! たぶん!」


 ふたりのやり取りが楽しくて、思わず笑ってしまう。

「もう、ふたりは仲良しね」


フィニララは私の方を向いて、満面の笑みを浮かべた。


「ねえねえマリーシャ、約束したもんね!」


 キラキラとした目で見つめてくるフィニララには、私に対する親しみしかなくて嬉しい。

 魔法なんて、いくらでも教えたい。


「フィニララは熱心よね。もちろんいいわよ」


「ええ、マリーシャ……」


 立ち上がると、セオドアが不満げに私の名を呼んだ。

 残念そうなセオドアの肩をそっと撫でる。


「セオドア様も、一緒にやりましょう」


「それならいいだろう」


 あっという間に機嫌を直して、セオドアも立ち上がる。セオドアもなんだかんだ魔法が好きなのだ。

秘密を教える気持ちで、そっと彼の耳元で囁く。


「もちろん私はセオドア様との時間、楽しんでいましたよ」


「それは知ってる。フィニララの事を大事に思ってることも。でも、久しぶりにのんびりだったからちょっと拗ねただけだ」


「……それは、私も残念です」


 二人の時間を楽しんでいたのは私も同じだ。

 そっと本音を呟けば、セオドアは私の手を握り肩に頭を寄せた。


「うううん、マリーシャの魅力的なお誘いは夜までお預けだな」


「セオドア様。今の会話のどこにそんなお誘いが?」


「君の瞳が、雄弁だった。間違いない」


 自信ありげに、にやりとセオドアが笑った。そんな意図じゃなかったけれど、そんな風に笑いかけられてしまえば、私もすっかりそんな気になってしまった。


「そうですね、また、夜に」


 ぎゅっと握った手に力をこめると、何故かセオドアは真っ赤になった。


「ああ、もう! マリーシャ……」


「えっ。なんですか?」


「君は、俺の弱点を何でも知っていそうだな」


「……んんん。意味はわからないですが、戦いにおいては弱点は知っています」


「ええ、戦ったところそんなに見ていないだろう」


「訓練を窓から見ていますもの。結構隙があるなあとは」


「……窓からじゃなくて、一緒にやろう」


「ふふ、そうですね。今からでも教えましょう。私の圧勝ですよ」


「私生活でも圧勝されてるから、訓練だけでもなんとかしたい」


「私生活が圧勝ってなんですか」


「惚れた方が負けってやつだ」


「それならせいぜい引き分けで、私が負けてる可能性も十分にありますよね?」


「マリーシャは、俺の愛を半分もわかっていないようだ」


「それはセオドア様です!」


「もうもうもう! いちゃいちゃしてないで早く訓練に行こう! 今から行かないと皆が来ちゃうんだよー先に知って自慢するんだから!」


 二人で笑いあっていると、少し先を歩いていたフィニララが振り返った。

 そしてそのまま膨れた顔で走って、セオドアと私の間に割り込んできた。


腕のあたりがもふもふしてくすぐったい。


「案外ろくでもない考えで、俺たちの時間を邪魔したんだな」


「先輩風を吹かせたいんだよ」


「結局駄目だな」


 フィニララとセオドアがじゃれているのを、私は嬉しくなって見つめた。


 ついつい悪戯したくなって、魔法でキラキラした光を出し、二人の間に発生させる。


「えっ、なんだこれ」


「なになにこれ!」


突然現れた光の星屑に、二人は慌てて距離を取った。

さっと警戒態勢になり、なにか見極めようとしている。

悪戯だったけど、思った以上に警戒させたようだ。怖がらせないように種明かしをする。


「可愛いでしょう? 意外とびっくりするし簡単だから、この辺から覚えましょうねフィニララ」


「うわー! 確かにすごい不意打ちになる! ただの光よりもびっくりするよ! こんなキラキラしてるの初めて見たから、結構こわかった!」


「俺もできるぞ……多分」


「魔力が多いと案外難しいですよ。……それにセオドア様には別の練習があります」


「……なんだか良くわからないけれど、良くない予感がするな」


「疲れてぐっすり寝ちゃだめですよ」


 囁くと、セオドアは驚いた顔をしてから、楽しそうに笑った。


「それは、もちろん」


 訓練は私の独壇場で、終わった後はフィニララとセオドアは倒れるように眠ってしまった。





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コミカライズがcomicスピラf様という電子雑誌で連載が始まりました!

是非こちらもよろしくお願いいたします。

コミカライズでは下記のタイトルに変更となっています。漫画家様は藤いちのせ様です。

【今世では、ひとりで生きようと思います。そのはずが…】

藤いちのせ様が描くマリーシャがとても可愛くセオドアも素敵なので、是非是非!

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【コミカライズ・完結】黒聖女は今生では騙されずに一人で生きていく!…でも呪われた公爵様と結婚する事になってしまってます 未知香 @michika_michi

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