【最終話】第52話 運命の相手と幸せな結末
「こんな事をしたのは、お前が王太子になりたいからじゃなかったのか?」
「それは違います」
「セオドア……私たちを、それ程恨んでいたのだな……。だが、ハインリヒじゃなくお前を王太子にするというのに、何が不満なんだ」
「私は不満からこうしたのではありません。それに、あなたたちをもう家族だとは思えないのです」
それはそうだ。セオドアは兄から命を狙われ、誰も助けてはくれなかった。遠ざけたけれど、それだけだ。
ずっと放置してきた結果、今回だって呪いを受けた。
私と会ったとき、セオドアは死にかけていたのだ。
「陛下、お言葉ですが、それは出来ません。私の夫は、私と初めて会った日、もう死んでしまうところでした。あの日、警戒音が鳴りましたね。王族の誰かが狙われたと、わかっていた。しかし、それを鳴らして、終わり。その後誰も私の夫を助けには来なかった」
あの日、セオドアを本当に助けに来た人は居なかった。呪われたと知っているはずの、あの後も。
「それは……、だが、セオドアが助かるように、警戒音を鳴らした! 誰かに助けを求めれば、それで……!」
「それで、再び呪われた身体でハインリヒ様の前に出ろということですか?」
陛下は私の視線から逃れるように下を向く。
「セオドアは死ぬところだったんです! あなた達は、何年も、何年もそれを見逃してきた!」
ハインリヒに毒を入れられた後、食事をためらうようになって痩せたと言っていたセオドア。でも、表に出す事は許されなかったと。
暗黙の了解。
死ぬ運命。
仕方がない事だと流されてきた。
つらい目に合う事を仕方がないと流してきた、私と同じ。
この人たちには響かないとわかっている。
それでも、言わずにはいられない。それで、伝わらないことに、また傷つく。
馬鹿みたいな私に、涙が止まらない。
「大丈夫だマリーシャ。泣くな、泣かないでくれ。前にも言っただろう、運命の出会いがあったって。君に会って救われた。これ以上ないぐらいに」
「でも、でもセオドア様」
「だから、もう大丈夫だ。マリーシャがさっき、やり返して気分が良くならなかったと言っていただろう? 俺も同じだ。もう、どうでもいいと思っているから、心に響かない。やり返す価値なんて、ないって事だ」
「……それは、そうかもしれません」
セオドアのいう事が、理解できた。
もう自分の中で消化されてしまえば、復讐に意味などない。
生きようが死のうが、関係ない。
だから、私だって彼らの為にやり返す行為が虚しかったんだ。
「マリーシャにとっても俺は運命の相手だからな」
「相変わらず図々しいですね」
「そんな事言わないでくれよ。……陛下、そういうことなので、今の話は聞かなかったことに。ただし、こちらからも王家の方針については介入させていただきます。信用できませんので。……そして、私の事はガランド公爵とお呼びください。誤解が生まれるとよくないので」
「……わかった、ガランド公爵」
「ライガルド侯爵家と二人の処遇については、お任せいたします。……納得できないのであれば、魔鉱石は王家にはお渡しできません。もちろん納得できても、数は制限させていただきます。そして、魔鉱石を手に入れることによって生まれる大きな権力についてはこちらで管理します」
これは、王家と同等、もしくはそれ以上の力をガランドが持つという事だ。
「……当然、わかっている。今日はもう、下がってくれ」
「わかりました、陛下。どうか、良い判断を」
セオドアの言葉が冷たく響き、精神的にすり減った食事は終わった。
*****
ラジュールが淹れてくれたお茶を飲む。心配する彼には簡単に説明をし、部屋に戻ってもらった。
タイミングが違っただけで、おおむね打ち合わせ通りではあった。
「マリーシャ」
「セオドア様」
セオドアが私の髪を優しく触る。私のくるくるとした髪を指に巻き付けたりして、楽しんでいるようだ。
「やっぱりこの髪の毛、可愛いな」
「短くしたらどう思いますか?」
「可愛いと思う」
「適当に言ってませんかそれ」
きっぱりと言うセオドアに笑ってしまう。魔力なんて関係ない彼は、私の髪の毛の長さなんて気にしない。
実際、長年呪いにさらされていた彼は自分の魔力量も多く、魔力操作に長けている。
あの後どうしても教えてくれと言われ魔術を教えているが、その内私よりも使えるようになりそうな気がしている。
聖魔法は流石に適性不足だと思うが。……多分。
「ガランドでは髪の長さを気にするような人は居ないし、俺は君がどんな髪型でも可愛く思えるような気がする。……何かしらの魔術じゃないよなこれ」
「どんな疑いですか」
「いや……、今までこんな風に心が動くようなことが少なかったから、どういった事かなあと」
本当に不思議そうに首を傾げるセオドアに、私は親切にも教えてあげることにした。
「自分でも言っていたでしょう? 運命の相手だからよ」
「確かに、それは間違いない」
セオドアは納得したように頷いた。
お茶をひとくち飲み、彼はまじめな顔で私の事を見た。
「ライガルド侯爵の処遇は、本当に王家に任せていいのか?」
「ええ、セオドア様と決めた通りで」
「……わかった」
私の父は、たぶんハインリヒの罪もかぶり爵位をはく奪されるだろう。しかし、カノリアはそのままハインリヒの妃として納まるはずだ。
ガランドが王家に介入するにあたり、その事を説明できないからだ。
これからは実質的に魔鉱石を採掘でき、発言権が増したガランドが力を持つために、王家の力はかなり弱まる。
また、彼らが大きな権力を持ちすぎないよう、これから分散を行う予定だ。
ハインリヒはこのことをどこまで理解できるだろうか。
……魔術と地位に固執していた彼には、苦しい事態になるはずだ。
「ちゃんと見張れば大丈夫よね?」
ちょっと不安になってそう聞けば、セオドアは気軽な口調で答えてくれる。
「ハインリヒ殿下は、マリーシャの魔術が得られなかったことで心が折れていそうだったから、もう大丈夫だろう」
「セオドア様が聖魔法以外私と同じように使えるようになったら、もっとショックを受けそうですね」
「それは間違いないな。少なくとも、今後について陛下はわかっているだろう。……でも、ハインリヒ殿下が失態を演じたと知れば、あんな風に俺に頼ってくるんだな。結局生き残ればどっちでも良かったんだ」
最後は陛下の言葉を思い出したようで、ため息をついた。
「あなたはガランド公爵よ」
「そうだな。それに、俺はもし子供が生まれたらどっちも可愛がるし」
確かにセオドアはそうしそうだと、私は頷いた。
「その前に盛大に結婚式でもしようか」
「えっ」
「パーディーをして、俺たちがどんなに仲がいいかを見せつけよう。醜聞もあっという間になくなる」
いたずらをするように笑う彼は、私が前にパーティーを開こうと言ったことを覚えているようだ。
「確かに、すぐにわかるわね。私達が仲良しだという事が」
私も同じように微笑めば、セオドアは何故かさっと頬を赤くした。
「なんだか、マリーシャから言われると照れるな」
「これを見れば遊んでない事がすぐにわかるわね」
「からかわないでくれ」
弱った動物のように眉を下げるセオドアが可愛くて、私は彼に抱き着いた。
「結婚式は、ガランドでやりましょう」
「ブルーベリーチーズパイをたくさん用意しないとな」
私達はしあわせな近い未来を思って、そっとキスをした。
きっときっと、たくさんの大好きな人に囲まれて、運命の人に出会った私たちは世界一幸せな夫婦になるだろう。
※※※※※
最終話まで読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただけたら、評価してもらえると大変励みになります!
また次作でお会いできると嬉しいです。よろしくお願いします。
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