第33話 カンナ

 午前四時三分。


 携帯の液晶に写った時刻を確認し、二度寝を決め込もうかと思ったが、やめた。


 ベッドから起き上がり、電気をつける。


 ストレッチを行い、全身のこりをゆっくりとほぐした。


 昨日のことを思い出す。


 今思い返してみても、まるで現実とは信じられないことばかりだ。


 夢で襲われ、現実でも襲われた。


 しかも、そのどちらでも人間が死んだのだ。


 あっさりと。


「ん?」


 携帯の通知音が響く。


 パスワードの画面には何も写っていなかったが、どうやらメッセージが入っているらしい。


 ラインを開けると先輩と亜衣、カンナからいくつかのメッセージが入っていた。


 先輩からはまた自宅待機の命令。…昨日亡くなった人たちの葬儀を行うためしばらくは動けないとのことだった。最後には体調管理をしっかり行うことと絶対に一人出歩かないこと、何かあれば連絡することを繰り返し書かれていた。亜衣も似たような内容である。


 最後に、カンナ。


 カンナからは全く予想だにしない内容だった。


「今から行く…?」


 思わず画面を二度見した。


 簡潔な文面に読み間違えはありえない。


 カンナはおれんちに来ると行っている。突然のことに驚き、今という単語に愕然とする。


 発信時刻を見て…こわっ!


 午前四時三分。


 偶然だろうが、おれが起きた時刻とほぼ同時刻。液晶の時計はちょうど午前四時五分を刻んだところ。


 いくらなんでも非常識すぎる。


 断ろうと思ったがおれの言葉を聞く奴じゃない。逆に気づかなかった振りをしようかと思ったが、既読がついてしまっている。


 しょうがなく起き上がり、カーテンを開ける。

 

 そこにカンナがいた。


「うおおおおおおおっ? あだっ!」


 思わずベッドから転げ落ち、後頭部をしたたかに打ち付ける。目の前で火花が散った。


 いや、なんでいるんだこいつ?


 空はまだ薄暗く、月明かりが照らしている。カンナは窓の外から無表情のままおれを見つめていた。


「あ、携帯」


 無表情のまま片手でスマホをいじるカンナ。


 直後、ラインの通知音。


 自分のスマホから鳴ったことに反射的にのぞき込んだ。


「wwww」

 

 思わずカンナをみた。


 無表情。


 無表情のまま、再度同じメッセージが送られた。


「ええ…。いや、あの、ええ…?」


 こいつこんなおもしろいキャラしてたっけ?


 普段とまるで違う振る舞いに寝起きも相まってリアクションすらとれない。


 呆然と見つめていると再度通知音がなった。


「あけろ」

 

 たった一言と見下ろす眼光に負け、迅速に窓を開けた。


「おはよ」


「あ、ああ。…おはよう」


 カンナは何事もなかったように室内に入ってきた。


 土足を指摘しようと思ったが、ちゃっかり靴は脱いでいる。


「寝癖、ついてるわよ」


 そりゃ寝起きですから。


 その一言を言うこともできない。


 ここまでの流れで随分と気力を失ってしまった。


 とりあえず椅子を引っ張り出した。が、何故かカンナはそのままベッドに腰掛ける。


 で、何故か無表情でおれを見上げているのであった。


 …なんかよくわかんないが、わかった。


 おれは渋々椅子に座った。


「で、なにしにきたんだよ?」


「遊びに来たのよ。あ、灯りはつけないで。誰かに見られると恥ずかしいから」


 遊び? 恥ずかしい?


 言葉のチョイスがいまいちずれてないか?


 が、意図はわかるのでそのまま聞き流す。もしかするとこいつも寝起きでぼけているのかもしれない。


「遊びっつってもな。菓子も飲み物もだせねえぞ? ゲームだって音響くからできねえし」


「今更ゲームなんてしないわよ。それよりもっと大事な話があるから来たの」


 結局遊びじゃねーじゃねえか。いや、まぁ、そりゃそうだろうけれど。


 そういうつっこみは胸にしまって、カンナの言葉を待つ。


「昨日のこと、まだなにもわかってないんでしょ」


 だから、教えてあげる。


 カンナはそう言って言葉を紡ぐ。


 昨日のこと。


 それは当然、先輩の家の出来事である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤンデレ幼馴染のためならなんでもやります! ペコ @kuropeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ