マッサージしてくれない? 腰と脚

 夜。特にすることもなく、ベッドに転がりながらスマホでネットサーフィンをしていた。最悪、このまま寝落ちしてもいいやって感覚だ。電気は夜中に目が覚めたときにでも消せばいいやと。


「兄さん居る?」


 当然のようにノックもせずに部屋に入ってきた義妹。もはやため息すら出てこない。慣れって怖いよな……。


「いるぞー」


「兄さん、お願いがあるんだけど」


 二葉の言葉で視線をスマホから義妹へ。お風呂上がりなのか、髪がしとっているように見える。パジャマ代わりの体操服姿なのはいつも通りなので、これといって思うところはない。


 強いて言えば、胸元のパツパツ具合が悪化してる気はするけど……指摘するのも憚れる。微妙に貼り付いてる感もあるし、お風呂から出たときにちゃんと身体を拭いてるのか怪しい気がする。


「どうした?」


「ちょっとマッサージしてくれない? 腰と脚」


「マッサージ?」


「そ。お風呂に入りながら自分でもやったんだけど、なんか足りてない気がするのよ。兄さんのほうが力強いし効果高いかなって」


「まぁ別にいいけど。二葉の部屋行くか?」


「どうして? 兄さんのベッドでいいよ」


 だよな……一応、俺のベッドじゃ抵抗あったり嫌がるかも? と思ったけれど二葉は気にしないよな……。


「ほらよ」


 俺がベッドから起きると、入れ替わるようにしてうつ伏せになる二葉。なんの躊躇いもなかった。


「ん、兄さんの匂いがする」


 それどころか、枕に顔を埋めて深呼吸する始末だ。


「お前な……」


「あ、大丈夫だよ兄さん。ちゃんとわたしの匂いもつけとくから」


 なんて言いながら布団に入ろうとする義妹に頭が痛くなってくる。


「マジでやめろ……」


 なにがタチ悪いって、ちゃんといい匂いがするんだろうなと想像つくのが嫌だ。本人もわかってやってるのが酷い話だろ? 寝るときに義妹の匂いに包まれるとか考えたくもない。


 氏姫の匂いなら歓迎なんだけどな……。


「でもお風呂上がりだから、わたしの匂いっていうよりはシャンプーの香りになっちゃうか」


「マーキングしたらマッサージしてやらないからな」


「マーキングって……」


 二葉がなにか言いたそうな顔をしながら見てくる。ただ否定できなかったのか、文句は飛んでこなかった。代わりに、布団に入ろうとするのをやめると改めてうつ伏せになる。


「枕は回収な」


 二葉が顔を埋めてる俺の枕を抜き取った。適当に床へ放りながら、二葉の身体を見下ろす。ちなみに二葉は枕の代わりに、自分の両腕を敷いていた。


「兄さん?」


 催促するように呼んでくる二葉。まるで自分のベッドに寝てるみたいなリラックス具合だな……。


「いや。腰と脚って言ってたよな?」


「うん。特に腰をお願いしたいかな」


「了解」


 ベッドに膝立ちで上り、二葉のお尻の跨ぐ。そして腰に両手を添えた。俺がちょっとした悪戯心を発揮すれば、脇腹をくすぐるくらいは簡単にできそうだ。


「脇腹くすぐったりしないでよ」


「する訳ないだろ」


 変なとこで勘が鋭いよな、俺の周りの女子陣。まぁ、釘を差されなければくすぐる気だったけど。


「どうだか」


「……始めるぞ」


「んっ」


 親指で背骨の両側を指圧すると、二葉が吐息混じりの声を漏らした。


「悪い、痛かったか?」


「ううん大丈夫。いまみたいな感じで続けて欲しいかな。可能なら腰全体だと嬉しい」


「へいへい」


 遠慮なく要望を言ってくる二葉に頷いて返す。どう考えても見えてないけど、気配で察するだろうから問題ない。


「というか兄さん、体勢ツラくない?」


「逆に聞くが、腰をマッサージするのに他の体勢ってどうするんだ?」


 身体の横に陣取るとかか? マッサージ機を使うならアリかもしれないけど、指圧だと大体こうなるよな?


「普通にわたしの身体に座ればいいのに。そのほうが楽じゃない?」


「いや、力が入れにくくなるだろ」


「そっか。言われるとその通りかも」


「というかさ……俺がこの状態で座ったら、お前のお尻に座ることになるんだが?」


「ふ、う……あ、いまのとこ少し続けてくれる? すごく気持ちいい」


「あいよ」


 確かに少し凝ってるような感じがしたな。言われた通りに同じ場所を一定のリズムで指圧し続ける。


「わたしはお尻に座られても別に気にしないけど。兄さんだし」


 どういう意味で受け取ればいいんだか……。


「そこは気にしろよ」


「兄さんは賭けとか罰ゲームじゃないと、わたしのお尻を撫でたり揉んだりする気にならないでしょ? するとしたら、苛ついたときに叩くくらいじゃない?」


 その認識は正しいんだけどさぁ……二葉さん?


「苛つかせてる自覚があると?」


「そりゃいくら家族でも苛つくことあるでしょ。お互いに」


「まあな。兄妹って親子以上に遠慮しないもんな」


「兄さんさ、わたしのお尻を叩きたくなるの否定しなかったね。流石、女の子の下半身大好き人間」


「おいこら! 言い方に語弊ありすぎだろ!」


「ひゃぃ!?」


 変なことを言いやがった罰として脇腹をくすぐってやった。


「ったく」


 もっとも、すぐにやめるけどな。


「嘘は言ってないはずだけど。脚フェチでお尻フェチじゃん」


「はぁ……」


 なんで俺、こんなこと言い出すような相手のマッサージしてるんだろうな?


「……」


 急に黙られると怖いんだが? くすぐりの反撃で妙なことを考えてなきゃいいけど。


「どうした?」


「……兄さんの手がさり気なく上がってきてるから、おっぱいを狙ってるのかな――痛い痛い! 冗談だって!」


 言葉を途中で遮るために親指のひらじゃなくて、中指の第2関節でグリグリしてやった。相当痛かったのか、振り返った顔には涙が浮かんでいる。


「誰が妹の胸に手を伸ばすよ……」


「兄さん、わたしの胸の感触をよく知ってるくせに」


「お前が押し付けてくるからだろうが!」


「好きなのは否定しないんだ?」

 

 だって二葉、否定すると意地になってこの場で押し付けてくるタイプじゃん……俺が望んでる! とか言い出すのが目に見えてんだよ!


「ほら、アホなこと言ってないでマッサージ続けんぞ。まだ腰か?」


 こんな会話はさっさと終わらせるに限る。そんな考えで、うつ伏せに戻った二葉に確認した。


「そろそろ脚をお願い」


「わかった」


 膝立ちのまま、後退していく。今度は二葉の膝辺りを跨ぐ形になった。視線を改めて二葉の身体に向けると、話題に出ていたお尻が目に入る。パツパツの紺色ハーフパンツに包まれたその部分は、氏姫と比べると控えめなものの肉付きは良好だった。


 二葉が自分で言っていたけど、叩きたくなる尻って認識なのわかる気がするな。


「お尻のちょっと下辺り」


 なんて言いながら脚を少し開く二葉。つまり、片脚づつ両手で揉めってことか。取り敢えず右脚からマッサージすることにした。


「この辺か?」


「流石兄さん。1発でわたしが望んでる場所を当ててくるね」


「まぁ長い付き合いだしな。言葉で言われればなんとなくな」


 両手で持っている太ももを親指で押していく。力加減はやや強め。元々、義妹は自分で揉むよりも強い力を求めて俺に頼んできてるしな。だからって強すぎて痛めたりしたら大変だから慎重に。


 さっきの腰? あれはマッサージじゃなくて戯れなのでノーカンだ。特に新しい要望も文句も飛んで来そうにないからこの調子で続けることにする。


「えい♪」


 わざとらしいくらいに楽しそうな声色だった。いや、俺の部屋に来てから割と楽しそうだったけどさ。いまのはわざとらしさが半端なかった。


「揉みにくいんだが?」


 二葉が開いていた脚を閉じさせいで、彼女の太ももに挟まれる俺の左手。ハーパン越しでもわかる体温がぬくい。


「いま兄さんが考えてること当ててあげよっか?」


「うん?」


「姫姉さんの脚と比較して、心の中で品評してるでしょ? 『氏姫の太ももと比べると二葉は細いよなぁ。少し筋肉質だし。肌の質感は似た感じだけど、やっぱ俺の好みは氏姫だな』って」


「力を入れすぎて痛めないように気をつけないとって思ってたよ! そもそもハーパンの上からだろうが! 肌の質感とかわかるか!」


 つい目の前の尻を思いっきり叩いてしまった俺は悪くないよな? ちなみに、めちゃいい音がした。


 ちなみにちなみに、ああは言ってたものの実際に叩いたら怒られると思ってたんだが――


「何回も直接触ってるんだから知ってるでしょ? ちょっと記憶を辿れば脳裏に蘇るくらいには指先で覚えてるよね?」


 どことなく機嫌が良さそうだった。解せぬ。


「妹の太ももの感触とか肌の質感を記憶してる兄貴とか傍から見るとどうなんだ? というか妹的にもキモいだろ」


「義理の兄妹だからセーフじゃない?」


「……どうだかな」


 義理だからこそギャグで済まなくなる可能性高い気がするんだが。


 その後も他愛のない会話をしながらマッサージは続いた。


 寝るとき、ベッドからお風呂上がりの二葉の匂いが香ってきたのは言うまでもない。

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【春休み編完結】今日も幼馴染の水着姿を眺めたい! 綾乃姫音真 @ayanohime

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