第五話

 本当はドリスもレインも殺したいほど憎かったが、二人は国王にいいように使われた面もあり、全身にマライアの攻撃を浴びたママの状態で城の外へ放り出してやった。もちろんドリスもレインも裸だ。

 その後彼女らがどうなったかは知らない。愛人だった国王の死を嘆いているのか、裸を晒して笑われているのか、自分たちの過去の行いを悔いているのか、一方的にバーナードたちのことを憎く思っているのか。はたまたそれらを考える余裕すらなく野垂れ死んでいるのか。


 いずれにせよ簡単に死ねたシンディよりずっと過酷な思いをしているに違いなかったが、もはやどうでも良かった。


「マライア。付き合わせて悪かったな。これで終わりだ。後は国中、いや、全世界から追われ続けることになると思うが……」


「いや、あんたについて来ることを決めたのはアタシなんだから謝らないでよ。あの騎士のお姉さんをボコボコにした時点でアタシの復讐の大半は済んだから、悔いはないね。それにアタシらを捕まえられる奴がいると思う?」


「いないな」


「だろうね」


 バーナードたちは場違いな笑いを浮かべ、二人で並んで歩きながら城を出た。

 王を失ったこの国は滅びるかも知れないし、それとも貴族の誰かが立て直すのかも知れない。どちらにせよ今日の事件は歴史に残ることだろう。


「これからどうする」


「適当にぶらぶら、旅しようかなと思ってるよ、アタシは。森の住処に戻っても、また一人だしね」


 狼の尻尾を揺すりながら、マライアがのんびり答えた。


「なら俺もついて行く」


「ふーん? どうしてさ。あんたの復讐はもう終わったんでしょ」


 そう言いながら、マライアだってまんざらではないはずだ。

 短い共同生活、そして旅の間で二人の間には情が生まれていた。絆というほど固くはない。でも今度こそその情は本物だと思うから。


「俺も行くアテがないんだ。それに、もう少しマライアと一緒にいたい」


「それはアタシに対する告白?」


「別にそんなのじゃねえよ」


 マライアを好ましく思っているのは、事実だ。

 彼女は優しい。簡単に絆されてしまいそうになるほどに。


 しかしやはりシンディのことがあったせいで、どうしても言い出す勇気が持てないのだ。

 いつかその気になれた時、告白したいなとバーナードは密かに思っている。


 そんな彼の内心を知らないマライアは、「わかった。一緒に行こう」と笑ってバーナードへ手を差し伸べる。

 その豪快な笑顔に一瞬見惚れてしまったのを慌てて隠して頷き、静かに手を取った。


 復讐を終えた二人の足取りは軽く、今ならどこまでも行けそうな気さえした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てられ勇者は国王の首を叩き斬る 〜裏切り者への復讐を〜 柴野 @yabukawayuzu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ