第11話 わたし

 不安はあたり、たぬきと別れる日がきた。


「どこにいたって、あんたの頭の上には天がいる。あんたの姿がどう変わろうが、どこへ行こうが、天はあんたと一緒だ。だから、天に願ってみたらどうだい」


「何を……?」


「あんたの願いをだよ。強く願えば、絶対叶うから。あきらめるんじゃないよ!」



 その後、わたしは木箱に入れられて、何も見えなくなった。


 そして、箱から出された時、見たこともない部屋にいた。

 「博物館」というところらしい。


 そこには、色々な仏像がいた。

 話しかけてみた。しかし、声は聞こえない。


 たぬきの言っていたことを思い出す。

 つまり、居場所が違う存在か、からっぽの仏像か……。


 静かすぎる日々。 

 わたしは、これ以上ぼんやりしないよう、たぬきの話を思い出していた。


 そんなある日、老人がわたしの前で立ち止まった。そして、わたしをじっと見つめた後、話しかけてきた。

 

「私のひいばあさんは、若い頃、庄屋で奉公しておったんです。が、流行り病がひろまり、そこの人たちの多くが助からんかった。が、ひいばあさんは助かった。ひいばあさんは、毎日、地蔵菩薩様のお部屋を掃除していたから助けてもろうたと感謝しとりました。子どもの頃に聞いたこの話を、地蔵菩薩様を見た途端、思い出したんです」


 知っている……。

 わたしの中に沈んでいた何かが浮かんでくるよう。


 必死で、老人の話に耳をすます。


「だから、お礼を言いたい。私のひいばあさんを助けてくださって、ありがとうございました。おかげで、今、私はここにおります。ひいばあさんを助けてくださった地蔵菩薩様は、もともと、山の祠に祀られていたと聞きました。地蔵菩薩様も、人の勝手な都合で色々な所を巡り、沢山の願いを聞いてこられ、ここにたどり着いたんでしょう。これからは地蔵菩薩様の望まれることが叶いますように……」

 

 老人はゆっくりと手をあわせた後、去っていった。

 

 急に、山が目の前にひろがった。

 雨にぬれた冷たさや、草の匂いがよみがえってきた。


 たぬきの言ったとおり、わたしは山に住んでいたんだろう。

 一体、本当のわたしはなんだったんだろう? 

 知りたい! 


 でも、どうやって……!? 


(強く願えば、絶対叶うから。あきらめるんじゃないよ!)

と、たぬきの明るい声が頭に響いた。

 

 とたんに、気持ちが、ふわりと軽くなる。

 

 そうだ、天に願ってみよう。

 わたしが本当のわたしを知ることができるように。

 


           (了)



※ お読みいただき、ありがとうございました!

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わたし 水無月 あん @minazuki8

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