Mek Yéreðontzim 《湖鳴り》の前に
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《湖鳴り》の前に
冬の足音がすぐそこまで来ている。
イェレスティは大陸最大の湖スヴィニの畔にあり、この湖に頼って生活している。
このあたりでは
その前にやらなければならないのが《
東から飛んでくる
さて、一人の火の神殿兵がスヴィニ湖に向かっていた。彼はシドラハといい、褐色の肌には額から右目を通って上半身を覆うほどの、
「どうした、お前の晴れ舞台じゃないか」 « Háš aten? Urof Lenk itiir lé teói. »
「黙れ、面白がりやがって」 « Däte, urof nartze silfeer. »
湖の周りにはすでに人だかりができていた。シドラハが狩に参加するようになってからそのやり方はかなり変化し、みんなこぞってそれを見に来るようになっていた。
岸で控えている漁師や水の神官たちもなんとなく楽しげにシドラハの到着を待っていた。
シドラハは努めて事務的に尋ねた。
「罠の範囲は?」 « Höl itiir urof Adovim? »
「半レドーズだ」 « Ešilio redóz. »
シドラハは頷くと、大きくため息をついてから叫んだ。
「湖から離れろ!」 « Dräde hánon séa Yéresya! »
皆ぞろぞろと湖から距離を置いたが、好奇心旺盛な子どもたちはシドラハをよく見ようと身を乗り出している。
「下がれ、丸焦げになりたいのか?」 « 'Aig'en, Fartzúr tav'rito? »
少しいらついたシドラハに叱られ、彼らも退いた。
そんな彼の肩をガロイジがポンと叩いた。
「やり過ぎるなよ」 « Nartze dóza vekna. »
シドラハは言われるまでもないというように唸った。
そして彼は両腕を広げ、言った。
「
彼の周囲の温度がふっと高くなった。
シドラハは腕を掲げた。
「……
空が暗くなり、渦巻きながら分厚い雨雲が生まれ、それは低い唸り声を上げた。
シドラハの琥珀色の瞳が白く輝き始め、雨雲が雷鳴と共にぴかぴかと光る。彼は拳をぐっと握ってから、腕を湖に向かって振り下ろした。
耳を聾さんばかりの響きと共に太い稲妻が湖に落ち、細かな光の刃が沈んでいった。
シドラハは目を瞬き、屈んで地面に触れた。雨雲は徐々に薄くなり、消えていく。
湖にぷかぷかと何かが浮き上がってきた──
ややこしい出生のせいで、彼は火の神殿に生まれながら雷を操ることができた。それを利用して狩ができるんじゃないかと言い出したのはガロイジだが、まさかみんな乗り気になるとは。
ガロイジがシドラハの横に立って言った。
「ご苦労さん、《
シドラハはまた唸った。面と向かってそんな呼び方をするのはガロイジだけだが、どれだけ怒っても決してやめようとしない。
彼はなんとなくこの仕事が嫌いだった。漁師ども、普通に仕事をしやがれ。まあ、ここから半分生きている魚たちを集めて加工するのは漁師たちだし、それだって大変な仕事ではあるが。
漁師たちはさっそく網を引いて魚を集め、陸に上げて食べられず嵩張る翼を手際良く切り取っていく。かろうじて生きていた魚たちもこのタイミングで息耐え、緑玉のようだった鱗が白く色変わりする。切り取られた翼も矢尻やペンや輸出品として利用されるが、子どもたちはそれをくすねようと隙を伺っている。
魚たちは鱗を剥がれ、内臓は魚醤に、卵や身は塩漬けにされて春までの食料となる。
いくら寒いとはいえ生臭さは相当なものだ。臭気から逃れるように湖を後にしながら、シドラハはぼやいた。
「あいつら、俺がいなくなったらどうするんだろうな」
隣を歩くガロイジが言った。
「元のやり方に戻すだけだろ──というかお前、イェレスティを出たいのか?」
シドラハは肩をすくめた。
「もしもの話だよ」 « Háš ront. »
《
見せ物にされて不愉快な気持ちは残っていたものの、シドラハは気持ちを切り替えて祭りの支度を楽しむことにした。
風はいよいよ冷たくなっている。一週間やそこらで湖も凍り始めるだろう。
Mek Yéreðontzim 《湖鳴り》の前に f @fawntkyn
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