第二十一話 若大根売は見てむ、其の二
動揺を隠す為である。
「佐久良売さま。これは
オレの家の
戰場に行くのに、ついていくって言ってきかないもので、一緒に
と、にこやかに紹介をした。
見様見真似でやっている、教養のない礼なのは一目瞭然。
(家での働き
働き
(そういう事なのっ? しかも連れてきたって……、戰場でも手放せないって事?!)
佐久良売は、豪族の娘であり、自分の容姿にそれなりの自信がある。
しかし目の前の女は、若さがはちきれそうな、ふっくらした顔をして、身体の肉付きも豊か。
細身で、二十歳をとうにすぎた佐久良売とは、違う魅力を放っている。
そう、
ずっと、
食事に困らない女官だって、小鳥売ほどふくよかな
だが、小鳥売がそれなりの
「ま、ま、真比登……。」
口が、あわあわ、と動き、うまく言葉が発せられない。
真比登は小鳥売を、優しく微笑みながら見て、
「佐久良売さま、前に言った、お願い事は、小鳥売の事なんです。こいつはきちんと可愛いのに、自分に自信が持てないようなんです。
佐久良売さま、どうか小鳥売を、美しく着飾ってやってくださいませんか。お願いします。」
「ひぃ…………!」
(なんて事を頼むのっ?! あたくしに、あたくしに、
小鳥売がすまなそうな顔をした。
「真比登……さま。あたしみたいな、卑しい
「何を言う小鳥売! おまえは卑しい働き
(ああ……。もう駄目。)
「オレにとっては、もっと大切な───。佐久良売さまっ?!」
佐久良売は、真比登の言葉が終わる前に、気を失った。
「
佐久良売は、逞しい腕のなかで、心配そうな
うっ、と涙ぐむ。
「ひどいわ、真比登。あたくしの他に
目尻に涙をためながら、真比登を
「誤解ですって!」
と慌て、ふっくらとした丸顔の
「ほら、やっぱり……。真比登は言うのが下手くそなんですよ。」
と呆れたように真比登を見た。
そこには
「小鳥売は、オレの家族みたいなものです。
その強い抱擁で、佐久良売はちょっと落ち着いた。
「どういう事なの?」
「小鳥売は、
さっきまで
「厚かましいお願いですが、もし、着飾らせてもらったら、今夜、あたしから
郷では、
佐久良売はその勇気に感化され、
「……のった!」
気がつけば真比登の腕のなかで、力強く頷いていた。
* * *
ここからは、
佐久良売はさっさと真比登を追い出した。
「小鳥売、どうして教えてくれなかったの?」
「だって、
「そう?」
「あたしは、郷の避難してきた人にまぎれて、何事もなく過ごしたかったの。」
などと会話している。
佐久良売は衣装の入った
「あまり高い衣は駄目だけど、着てみたい衣はあるかしら?」
その色とりどりの衣の豪華絢爛さに、小鳥売は、ごくり、と唾を飲み込んだ。
「な、何を着たら良いのか……。」
「そうね。自分をどう見せたい? 華やか? 大人っぽく?」
「大人っぽくで!」
「なら、この、紫色の衣が似合うでしょう。
色が薄め、というのは、佐久良売の基準であって、この衣の生地も、
佐久良売が言う高い衣、というのは、三十回、染めを繰り返し、くっきりした紫色を出した衣である。
郷の女が着る衣は、一回、二回染めが主流で、良くて、せいぜい、三回染めの、薄い色だ。
衣の薄さ、柔らかさもふくめ、質が全く違う。
「とても綺麗です。」
「決まりね。」
てきぱきと、帯も
「もったいない事です……。」
「あげないわよ。今夜一晩、貸すだけよ。」
「もちろん、承知しています。」
小鳥売はぺこりと頭を下げた。佐久良売は、
「あなたは、真比登の家の働き
と言いかけ、真比登の事が気になりすぎか、とすこし恥ずかしくなり、
「あなたの想い人はどんな人なの?」
と無難な話題に切り替えた。小鳥売は、にこり、と笑い、
「
と、
↓挿絵です。 https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093076202803441
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