第二十話 若大根売は見てむ、其の一
あかねさし 照れる
※
※当時は通い婚だったので、人におおっぴらに出来ず、秘密で通っている妻のことを、
万葉集 柿本人麻呂歌集より。
* * *
夕刻。
「
佐久良売は、猫の
「にゃぁっ。」
と慌てて膝から逃げ出した。佐久良売は、
「走るでないっ!」
と叱った。
「お許しください。取り急ぎ、真比登さまの事で、お耳にいれなくてはならない事がございます!」
と一息に言った。佐久良売の顔色も、一瞬で変わる。自分の
「お話し。」
要約するとこうだ。
二人は、男女の礼節を保った距離、不用意に手が触れない距離をあけて立っていたが、流れる雰囲気が、尋常ではなかった。
小鳥売は思案顔でうつむき、真比登は、真剣な顔で
「悪いようにはしない。決断してほしい。」
「でも、あたし……。」
「小鳥売。」
「あたし、佐久良売さまに、悪いです……。」
「大丈夫だ。佐久良売さまはわかってくださる。」
そして二人は一緒の方向に去っていった。
「はあああああ〜〜〜?!」
その話を聴き終わって、佐久良売は腹の底からおどろおどろしい声を出した。
女官ではない。郷からの避難民なのであろう、質素な衣で、
つい昨日も、佐久良売は真比登の為の握り飯を作りに
「はいはい、今日もですね、佐久良売さま! 米はこちらを。はい、塩。さて、良い昆布の甘煮がありますよ。ちょっともらってきましょう……。」
と、下ごしらえを手伝ってもらったばかりだ。
小鳥売はおしゃべりがうまく、手も早い。効率良く食材を揃えてくれる。
でも、ただの郷の女だ。
顔立ちは平凡……。
(まさか、
今さらながら、
財力のある
でも、佐久良売は、嫌だ。
真比登には、自分だけを愛してほしい。
(他の
真比登は、あの年齢まで、
そのはず。いつの間に?!
だいたい、
そう思う佐久良売は、世間の常識とずれている。
わかっている。
でも、嫌なものは嫌なのだ。
だから、縁談の時に、他の妻も
あれは、婚姻なんかしたくない、という気持ちと、佐久良売の本心からの条件だった。
その条件で縁談したのだから……。
(ああ! 違う! 真比登はあの縁談は、偽りだったのだわ。
だから、
いいえ、真比登には、もう、変なこと、疑っちゃ駄目ですよって言われたわ。真比登を信じるべきよ……。でもあまりにも怪しい女が現れたなら、あたくしはどうすれば……。)
「佐久良売さま。」
佐久良売は緊張した顔で、
そこには、真比登と、ふっくらした身体つきの
(
佐久良売は目を剥いた。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093076138941689
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