第四十話 やうやう寄り来
やうやう
陸奥の
※
* * *
「皆に、真比登の目が覚めたって報告するから。たたら
といなくなった。
右腕を触る。……
(無くしたのか……? 誰か洗濯してくれたのか。オレの手元に返してほしい……。)
落ち着かない気分でいると、
「
と、
* * *
それなりの広さがある。
机、倚子、寝床。部屋の奥の目立つ場所に、
武具が派手で立派なのに対し、部屋は簡素だ。
ほほづきと、武具以外に、部屋の装飾はない。
防虫の為であろう、
顔色は悪くない。
こうやって見ると、歴戦の武人らしい
(まったく、ただの兵士であると勘違いするとは。たしかに、
「寝てなくて平気なの?」
「はい。」
「じゃあこの
「
オレは……、こんなですから、
(
「だからって、名前を偽って、他の者に縁談させて良いと思うの?」
「……申し訳ありません。オレは、我が身可愛さに、縁談から逃げたんです。
(……縁談から逃げた、って聞かされると、やっぱり傷つくわね。)
(まさか、縁談から逃げられ、代理に立てられた配下と縁談する羽目になるとは思わなかったけれど……。)
ムカムカしてしてきた。
「あたくしは年増なのに、縁談相手に
「そんな、違う!」
「違わないわ。あなたがしたのは、そういうことよ。
副将軍殿から縁談を押し付けられ、断りきれず代理を立て、挙句の果て、嘘がばれたら、
「違う……!」
(違うの?)
(どういうつもりで、
* * *
言わねば。
恋していると。
信じてほしい。
心は偽りではないと。
「心から、恋い慕っております。
ここまでは良い。
でも、妻にしたい、と言うのは、オレが
このような、美しい
自分だって、身体を見るとき、
(嫌だ。嫌われたくない。もう会話もしたくない、顔も見せるな、と言われてしまう……!)
「けして、
* * *
「ん?」
(そこは、妻になってください、じゃないの?)
「あたくしを恋うてる……のよね?」
「はい。」
「あたくしにどうしてほしいと……?」
「と、時々……。あの……、文字を教えていただいたり……、会って、話などしていただけたら……。」
そう言う間に、だらだらだら、と、大量の汗をかきはじめた。
「うん……?」
(会って話をする、だけ……。お友達なのかしら? たしかに恋してると聞かせてもらったけど……。)
「んんん……?」
これはどういうことであろうか?
それとも、婚姻したいほど恋してはいない、ということか。
そこまでではない、と……。
(あれぇ……?)
盛り上がってた自分が馬鹿みたいである。
「………。」
(待つ、か。)
自分から婚姻して、と言うのも
「時々会うくらい、良くてよ。」
「あっ! ありがとうございます!」
真比登は、ぱあっと大輪の花が花開くように明るく笑った。
(く……、笑顔が可愛い。その唇に、あたくしの唇を押し当てて、驚かせてみたい。
その逞しい腕にかき抱かれて、今も身体の内側で燃え続けているちいさな
こう思ってしまったら、
今はまだ、妻にしたい、と口にしてくれなくても。
いつか、心がもっと佐久良売に近づいて、
───どうしても妻にしたい、あなたは
と言って欲しい。それを、待とう。
心が寄って来て欲しい。
もしこれが、豪族の
(でもこの
「あ、それ……!」
「そうよ。あなたの右腕でボロボロになった飾り布は、あたくしが引き取って、手布に断ちました。」
「申し訳ありません……。」
「いいのよ。」
「あなたが生きていて、良かったから。」
「!」
(
やうやう
「忍び忍びに……。」
「また明日も昼餉の時刻に、ここに来ます。療養なさい。たたら濃き日をや。(さよなら)」
とかすかに微笑み、部屋をあとにした。
* * *
「ほあぁ〜!」
全身の血が熱い。
(許して……もらったのか?)
嫌われてない。これからも時々会いたいと伝えたら、目を限界まで細め、何とも言えない表情で真比登を見たが、明日もこの部屋に来るって言ってくれた!
最後の、忍び忍びに……は、意味がわからなかったが……。
まだ縁が切れていない。
優しい手つきで、汗を拭いてくれた。
「はぁ……。
白く透き通った肌。
桜色の唇。
漆黒の艶を放つ黒髪。
なんて美しい。
あでやかな微笑みと、甘く清涼感ある香りを残し、去っていった
* * *
お姉さまへ。
聞いてください! どうやら、佐久良売さまは、あの
今日、
───佐久良売さま、あの
と訊いてしまいました。佐久良売さまは、何もおっしゃいませんでしたが、にっこり微笑んで、頬が色づき、目が潤んでらっしゃいました。
あんな美しい笑顔、初めて見ました。
あたし達の敬愛する
でも、でもですね。
あの
いえ、恋ではないのかもしれない。ただのイケナイ
きゃ〜!!
いや〜!!
副将軍殿がいくら美男でも、佐久良売さまが本気になれば、きっと軍監殿を振り向かせることができるはず、あたしは信じています!
だから、ね。あたし、軍監殿が副将軍殿と深い仲なのは、
ああ、美男と
もちろん、
今から爪を
かごのぼっち様より、ファンアートを頂戴しました。
かごのぼっち様、ありがとうございました。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093079816268053
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