第三十五話 建怒朱雀
兵士の喧騒が、そこに集まり、異様な熱気が空に放出されている。
「おらぁぁぁ! どけ───ッ!」
日本兵に当たらぬよう気をつけながら、両の手の
馬から降りた
ぶうん、ぶうん、と勢いよく振り回される斧は、よほど重いと見える。熊手も勇壮無比な
「お───らああああ!」
敵はこっちを見、斧で防御した。
ガアアン!
重い感触、腹に響く打撃音がし、敵は、腰を落としたまま、ずずん、と後ろに下がった。足をふんばり、防御の姿勢を崩さないままだ。これでは、真比登の一撃は効いていないだろう。
(嘘だろ?!)
真比登の一撃である。にわかには信じがたい。
「
「すまない、
熊手をかばう位置に立つ。
「熊手っ。」
と味方が熊手を回収した気配がした。
敵は、ギラギラとした、殺意と、戦いの高揚に彩られた目で
「ウェンペ アナㇰ、ライケ。」
「なーに言ってんだか、わかんねぇよ。」
「はいやッ!」
イイイイイン!
「おらぁ!」
ガアン!
「!」
なんと
(本物だな、こりゃ……。)
このまま
「ここまでの強敵は、久しぶりだなぁ。」
(大地に両足をつけて戦いたい。)
「ウコイキ エアㇱカイ オッカヨ、エレへ マカナㇰアン? カイクー セコㇿ クレへ アン。」
と、右手の親指を、ビッ、と己にあて、目が笑みの形になった。口から下は、立派すぎる髭におおわれ、表情が良くわからない。
「カイクー!」
今のは、言葉が通じなくても、なんとなくわかる。
「カイクー?」
相手はそうだ、と言わんばかりに、笑みの目で二回、頷いた。
「ま、ひ、と。マヒト。」
と名乗る。カイクーも、
「マヒト。」
と口から言葉を出し、名前を確認する。
そして、ふっ、と息を吐き、表情を削ぎ落とし、雑念を全て捨てる。勝負に雑念を持ちこむ者は死ぬ。カイクーが、
「オオオオ!」
と斧を持ってつっこんできた。
上から下に打ち下ろしても良いが、下にさがったものを、上にあげるのにはかなり腕力がいる。
それより水平にかまえ、自身が回転し相手にぶちあてたほうが、効率が良いのだ。
回ることで、相手からも
「らぁ!」
斧とぶちあたる。一撃、二撃、カイクーは斧の背を瞬時に力を逃がす場所にあて、真比登の攻撃をいなす。斧を豪快に、そして繊細に扱う。
こちらは大石。カイクーは鉄。
真比登は怪力。そしてカイクーも……。
(お前も、持ってるヤツだな。神から愛された子。怪力に生まれた
では、存分に仕合おうか。
両者、一歩もひかぬ、重量のある武器で火花を散らす。
一瞬の隙も許されぬ。
刹那の気のゆるみで、カイクーは頭が地に落ちた柿のように潰れ、真比登の首は飛ぶだろう。
くるくる、真比登はまわり続け、カイクーは、
「ウワハハハ!」
と笑いながら、素早く斧をふるう。
(楽しそうだな。この命のやりとりの場で。)
つい、その声にのせられ、
真比登は軽い足取りの旋舞で、
両者の力は拮抗しているか。
「
「おお、
と、それぞれ戰いつつも、ちら、ちら、とこちらを見やり、勝負の行く末を気にしている兵士達の鼓舞が聞こえる。
(
それに、荒ぶる朱雀、というのは、あってない。
憎くて戰うんじゃない。
暴力に陶酔して戰うんじゃない。
いつも、頭の芯は冷えて、オレは冷静だ。荒ぶってなどいない。)
胴狙いの斧を、
膝狙いの
まだまだ腕に力をこめ、足を高速でさばき。
集中を途切れさせず。
精神を研ぎ澄まし。
勝て!
「ホ!」
と気合をいれて、ぐるっと右向きに一回転し、勢いの載った斧の刃で、がつっ、と
「!」
白藍(あさい藍色)の袖の衣がざっくり斬られ、なかから、血と
飾り布の
(ダメだ! それは
「!」
左手で切れ端を握るのと同時に、右肩の後ろに、とす、と衝撃を感じた。
ついで、ビリビリビリ、と右肩が痺れ痛んだ。
吹き矢を叩きこまれた。
あと少しすれば、痺れ毒により、
カイクーがこの隙を見逃すはずもない。斧を上段におおきく振りかぶった。
致死の一撃。
「う───おお───おおお!」
「ムゥ!」
カイクーが打ち下ろした斧を地面深くめりこませた。
「お───おお……。」
ぱつぱつ、とまわりに飛んだのは、
がく、とカイクーは
「おらぁぁぁぁ!」
素早く立ち上がった
カイクーの首を一刀両断した。
ごとん、と首は落ちた。
わああああ、と戰いを見守っていた兵が声をあげる。
「はあ……、はあ……。悪いな、オレは、負け知らずなんでな……。」
(本当の事だ。
戰において、負けは死を意味するのだから。そして、勝ちと負けの差は紙一重だ。お前が勝ってたって、ちっともおかしくはなかったさ、カイクー。)
荒い息がおさまらない。
右腕から血が流れる。
ひどく汗をかき、身体が痺れる。
「はあ……、はあ……。あな安らけ、
左手を硬く握りしめる。
さきほどは、
切れ端は、今も左手にある。無くしてない。
(───
「真比登! 大丈夫か!
………! …………!」
視界のはしに、駆けてくる
耳が聞こえない。
何を言っているかわからない……。
視界が暗転し、真比登は気を失った。
かごのぼっち様より、ファンアートを頂戴しました。
かごのぼっち様、ありがとうございました。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093079815793347
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