第十五話 家族のあさげ
早朝。
「おはようございます、
「おはようございます。お父さま、
家族は三人一緒に、朝餉をとる。
通常は、昼餉と夕餉、二食だが、
昼餉は、各自でとるようになり、その代わり、朝餉をとるようになったのは、新しい習慣だ。
今朝の朝餉は、米、すずな(カブラ)の汁物、豆の塩茹で、桃、
「うぇぇ……。」
小皿に入った一口ぶんの
「お姉さま、食べてくださらない?」
とお願いする。お姉さまは、ちらっとこちらを見て、顔の表情を変えず、
「あたくしはもう充分。」
と断られてしまった。
「あぁ───ん!」
(だって本当に食べれないんだもの!)
お姉さまが苦笑し、
「
と提案してきた。
「それもそうね!」
と
「お、美味し……。ありがとうございます!」
と幸せそうに笑う。
「はっはっは……。」
「ふふ……。」
「ほほほ。」
その顔のあまりの緩みっぷりに、家族三人、なごやかに笑う。
お姉さまが、ごくり、と唾を呑み込んだ
やっぱり苦笑しながら、後ろに控える
「はい。特別よ。」
とご自分のぶんの
「ありがとうございます!」
「美味しいぃぃ! 幸せですぅぅ!」
と涙目になって言うので、また、家族三人で笑う。
お姉さまが、お父さまを鋭く見た。
「お父さま、戦況はどうですの?」
お姉さまは、しょっちゅう、お父さまにこう訊く。
外が気になるのだ。
でも佐久良売姉さまは違う……。
「うむ。心配はいらない。我々が勝つ。」
お父さまの言葉も、決まり切った、いつもの問答だ。
「いつもそればかり! あたくしは、本当の戦況を教えていただきたいだけですわ!」
「…………。」
お父さまは顔をしかめ、沈黙する。
「お姉さま。お父さまをそのように責めてはいけませんわ。お父さまは文官なのです。」
お父さまが、むぅっ、と
「そういう
「…………。」
今度は、
「今までの縁談のなかで、一番良い雰囲気だったじゃないか。生命も助けてもらったし、爽やかな、良い若者だ。私は気に入ったぞ。」
「…………。」
「おまえの言う、妻も
「…………。」
お姉さまの表情の険しさが増す。
「まあ、教養のない
おまえは
「…………。」
「その点、あの軍監殿は、立派な教養の持ち主ではないか。あのような問答、とっさにできるものではないぞ。」
「お父さまッ!」
眉を立てた
「あたくしは婚姻なんていたしません! 何度もそう申し上げている
「バカ者っ!
いつまでも頼りにするのが、この父だけで何とする!
お父さまの言葉を最後まで聞かず、お姉さまはガタンと倚子を立ち上がり、さっさと
「
「朝の薬草摘みの時間です!」
お姉さまは振り返らず姿を消した。
「まったく……。困ったものだ……。」
お父さまがぐったりと倚子に座りなおす。
(お父さまもお父さまですわ。もっと言葉をお選びになればよろしいのに。)
との思いをこめて、お父さまを、
「…………。」
無言で、じとー、と見た。
これで通じるのである。
お父さまは
「
と指示を出す。
このままでは、お姉さまの食事量が心配だ。
「はい。」
* * *
朝露の美しい庭。
八月も、早朝の風は、少しの清涼を感じ、気持ちが良い。
「せっかく今朝は夢見が良かったのに。
良い気分が台無しだわ……。」
夢の中身は、
寝覚めに、胸が広々とする良い気分が残った。
「どうしてお父さまはわかってくださらないのかしら。婚姻なら、
あたくしは年増なんだから、もういいのよ……。」
よもぎを摘みながら、そう
「ワーホイ、ワーホイ、
かもかも、かもかも、
声質は柔らかく、ほどほどに低く、声が良く響き、響いたあとに甘い余韻が残る。
甘い声。
(あの声はきっと……。)
そこには、左頬に
* * *
※著者より。
ご興味が少しでもわいたら、一話しかないので、ぜひ。
「ももきね旅の草まくら」
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