第十六話 芍薬 〜しゃくやく〜
(やっぱり。昨日の
なぜか、
なぜだろう?
(ここで会ったとは、ちょうど良い。からかってやろう。)
「何をしているのッ!」
と大声をあげると、韓国源は、
「わっ!!」
と驚いてこっちを見た。
顔色がみるみる赤くなり、慌てて赤い花を後ろに隠した。
「後ろのものは何です? 隠しても無駄ですよ。何のつもりです?」
「あわあわあわ。」
「答えられないの? ……大罪ですよ。」
「えっ?!」
「この
花が咲ききる前に、
それを勝手に手折るとは……。」
「………!」
「言いましたよね? あまり無礼を働くと、
今から罰を与えます。逃げられませんよ。怖い罰ですからね。
目をつむりなさい。」
「
(素直でよろしい。……あら。)
昨日、源に手を握られ、近くに引き寄せられ、顔を間近で見させられた。
その時にも思った事だが、
(もったいない事ね。
まあ、源が美男であろうと、そうでなかろうと、
「ふふ……。」
よもぎの白い綿毛が鼻をくすぐり、
「ぶぁ、ぶぁくしょいっ!」
と源は大きくクシャミをした。
「あははははっ!」
「あー、すっきりした。これで許してあげます。
でももう、勝手に摘んじゃ駄目よ。
ここにあるものは貴重な薬なんですからね。」
「はい。」
「その
そこで
「あなたに差し上げるつもりでした。
あの……、昨日のお詫びに……。」
「あら……、ありがとう。でも、あたくしの部屋にはもう別の花を飾ってあるから……。」
源がぐいっと芍薬の花束をこちらに差し出して、必死に、
「この花のほうが新鮮なんだから、昨日もらった花は、
源は舌を噛んだ。
「あははははっ!」
手に籠を持って、向こうから歩いてきた
「づええっ!」
「
と
「お腹すいちゃったわ! ありがとう。」
と
中身は二つの握り飯。一つは、
源の目が吸い寄せられる。
「ま───っ! 駄目よ。これはあたくしの物なんですからね。あげませんよ。」
カーン……。
鐘が鳴る。
源がハッとしたように周りを見る。もう行く時間なのだろう。
「よろしい。源。明日の朝、今日よりも早い時間に、弓矢を持って、一人でここにいらっしゃい。
弓矢の腕前を見せてくれたら、特別に握り飯を分けてあげるわ。」
そう
「あっ、ありあり……、ありがとうございます。必ず、参ります。」
と源は礼の姿勢をとり、駆け足で去っていった。
「おいし───い。」
そこで
「
「なあに?」
「なぜあのような兵士と、親しくなさるんですか?」
「親しく? してないわよ?」
「はあ……。」
「
あたくしが今まで、縁談の相手を全員冷たくあしらってきたのを、見て知っているでしょう?
あたくしは、一人で良いの。」
「はい。」
「でも……。」
「でも……?」
「あの
* * *
お姉さまへ。
聞いてくださいまし、お姉さまあああ!
今朝、
それでね、
大笑いをしてたのです!
笑顔が眩しくて、楽しそうで、とってもお綺麗でした。
いつも、ご家族と一緒の時は、笑うと言っても、ほほ、と上品に笑う程度ですもの。
あんな風流の欠片もない、
あたし、自分のこめかみを拳でぐりぐりして、よーく考えてみたのですが、やっぱり、わかりません。
ともあれ、
嬉しいことです、お姉さま。
あとですね、この先はお読みにならない方が良いかもしれません……。
今朝、あたし、佐久良売さまから、
香ばしくて、豆がとろりとして、塩気と、酸味と、舌に残る芳醇な後味がたまりませんでした。
今思いかえしても、唾が口内にあふれます。
ふふふ、
↓佐久良売の挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330669049272606
↓若大根売の挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330669049391851
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