第2話 既知との邂逅 2

河北チヒロは急いでいた。

久し振りに友人たちに誘われ、花火バイトの仕事が舞い込んだのだ。

K.O.大学に籍を置く数人の友人たちは、既に打ち合わせのためこのビル街のどこかにいるらしい。


らしい、というのは、渋谷駅からの移動ルートを大雑把にしか説明されていなかったからである。

「くっそがC3からの迂回とか言われても分かんねえよ、土地勘があったってこんなん無理だろ……!上京2年目なめんな……!!」

通信制限のかかったスマホをにらみながら、河北は「コンビニコンビニコンビニ……」と目を血走らせていた。


トイレを探しているのである。

無理もない。渋谷駅の地下深くから脱出するのにも手間取った挙げ句、目当ての地上出口は工事中だった。月末かつ金曜日の夕刻である。何が何やら分からないほど人でごった返している。

「あっ郎損……!!」

川沿いの少し遠くに認めた青い看板めがけて河北はダッシュした。


と、後ろから水しぶきの上がる音がした。小さな悲鳴に続き、どよどよとした野次馬声も聞こえる。

知るか、こっちは色々ギリギリだわ!!!と郎損に駆け込む。


3分後、友人と先方に連絡が取れた。幸い談笑していた最中らしく、概ね仕事の段取りはついたらしい。

「ところで河北君の誕生日っていつだい?」

「5日後ですけど……?」

「あっそうなんだ、丁度良かった。皆に夕飯ごちそうしようかと思ってたんだけど、急ぎの用事ができちゃってね。それなら誕生日祝いに友達とディナーでも食べてきなよ。契約金ではないけど、少しばかり渡すからさ。」

「ありがとうございます!」

気の良い方だ。履歴書を見て理由を考えてくださったのだろう。後ろからも「えっ良いんですか!?」「やる気出てきた〜!!」と聞き馴染みの声が上がる。

「それじゃ準備のときによろしくね。体力勝負がんばってください。」

「よろしくお願いします!」


ほっとしながら通話終了ボタンを少し待って、押す。郎損に一人用ワーキングスペースがあって助かった。

すぐにパインに連絡が届く。打ち合わせに行っていた陽海からだ。

ハル〈Wi-Fi入ったん?〉

キターン〈そうそう〉

〈いまどこの店?〉

〈ここ(短縮URL)〉

〈オッケー、じゃ駅方面に向かって歩いて。川のどん詰まりで合流ね〉

〈りょ、ありがとね〉

〈面白いネタ持ってきてね〜〉

〈うげ〜〜〉

画面を消して、ワーキングスペースを出る。

大汗をかいたので、制汗剤と大きめのホカリを買って郎損を出た。


建物越しでも夕焼けが赤い。

待ち合わせ場所まではそう遠くない。ホカリのボトルを捨てて少ししてから歩き出した。


先程よりも人が多い。というか、歩くほどに密度が高くなる。

かき分けるようにして進んでいくと、その理由に出くわした。

皆一様にスマホを構えている。

人の間から詳しくは見えなかったが、その異様さは河北も感じていた。


5分ほどして、陽海たちと合流した。

「なんかやけに混んでるね」

「つーかチヒロなんで難しい顔してるの?」

「事件でもあった?」

どう言ったものか考えていたが、

「ちょっと付いてきてくれない?」と言った。事実を見せたほうが早い。

「グロくない?」

「大丈夫、グロくはない」

「くは、って何だよ」

流石に聞きとがめられている。

「半裸のラグビー選手みたいなガタイしたNBA顔負けの大男が川ん中に座り込んでるんだよ」

「何それめちゃくちゃ面白そうじゃん!!!」

陽海以外は狐につままれた顔をしている。

とにかく行って見せたほうがいいだろう。


こんなことは滅多にないだろうという確信だけがあった。

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逆異世界転生 @tayutaiwark

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