野球部キャプテン③

 キャプテンだから。チームのトップだから。後輩たちの責任を負わないといけない人間だから。男だから。ずっと、ずっと、俺は自分で自分を追い込んでいた。だから、泣かないでいた。でももう、今だけは、その圧は働かなくなっていた。


「う、うっ……。あああああああああっ……」


 ああ、俺、泣いたのいつぶりだっけ。


 俺は、頑張ってる。俺は多分、その言葉が欲しかった。誰かに認めてもらいたかった。全部全部吐き出して、素直だった時の俺を、取り戻したかった……。


 それでも恥ずかしくて、俺は腕で涙を拭う。声が出そうで出ない。つぎはぎな声を赤ん坊みたいに出しながら泣きじゃくっていると、背中に温かい感触がした。SUZUKIの手だ。俺の所まで来て、背中をさすってくれているのだ。


「ごめん、SUZUKIさん……! でも、俺っ……」


 こんなところで泣いてしまう俺がカッコ悪くて、バカみたいに思えて、さらに涙が溢れてしまう。


「いいのよ……。今のうちに泣けるだけ泣きなさい……。晴人さんにはその場所が、今まで無かったのよね……」


 ああ。なぜだか分からない。分からないけど。俺はずっとずっと、こうしたかった。


 ここに来て良かったと、俺は心の底から、そう思った。


 ・・・


「ありがとうございます、SUZUKIさん」


 心が晴れて、すっきりした。涙を拭ったあとのファミレスの風景は、さっきよりも鮮明に俺の目に映ってきた。俺は清々しい気持ちで席を立ちながら、バッグの中の財布から密かに貯金箱から取り出した千円札一枚を出した。


「本当に、ありがとうございます」


「あら、いいわよ、こんなに。私は何もしてないわ。晴人さんが自分で答えを見つけたのよ」


「自分で、答えを見つけた?」


「ええ。私のところまで来て、悩みを話しに来てくれた晴人さんは、とても強い人よ。私はただ、晴人さんの考えを聞いただけ。それだけでも、晴人さんの支えになったなら、嬉しいけどね」


 この人は、本当にすごいと思った。ただスナックを気取って、大人ぶってるだけじゃ無かった。きっとここは、青春の最中で迷ってしまった人たちがたどり着く、秘密の相談室のようなものなのかもしれないと思った。


「また、いやなことがあったらおいでね」


「はい、その時は、また来ます」


 はっきりと言い放つと、SUZUKIは嬉しそうに、青春の面影を残した笑みを浮かべた。


「? どうかしました?」


「ふふっ。今の晴人さん、前よりももっとかっこよくなったなと思って」


 ・・・


 SUZUKIは晴人がファミレスを出た後、少しだけの間その場で時間を潰していた。


「晴人くん、カッコいいな〜って思ってたけど、やっぱり先客がいたか。そっか、そうよね。晴人くんには、あの子みたいなマネージャーさんがお似合いか〜」


 そして彼女はちょっと悔しそうに、メロンソーダのおかわりをグイっと呷ったのだった。


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青春スナックママ・SUZUKI うすしお @kop2omizu

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