第19話 フラッシュバック

部屋で休んでいたカペラは、神官たちの支度する音で目を覚ます。

貴族とはいえ、自分のことは自分でするべきという家で育った為、

侍女を連れていない。

身支度を終え、食堂へ向かう途中で慌てた様子の神官に声をかけられる。


「すみません! ギナンを見ませんでしたか?」

「おはようございます。いえ、見ていませんが、どうかしましたか?」

「奇石がなくなったのです!

 今朝は私とギナンが神殿内の掃除当番だったのですが、

 部屋に呼びに行ったら部屋の中の荷物がまるっとなくなっていて。

 嫌な予感がして神殿に戻ったら……」

「奇石が無くなっていた、と」

「はい……。きっと彼が犯人です!」

「確かに疑わしいですが、まだそうと決まった訳ではありません。

 とにかく早く見つけて話を聞きましょう」

「はい」

「失礼、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「ミモザと申します」

「ミモザさん、何かありましたら知らせます!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


ミモザは他の神官達が集う聖堂へ向かった。

カペラはその場に1人残される。


突如姿を消したギナン。

そして同時になくなった奇石。


どうしてもあの事件を想起させる。

偶然の一致であればいいと、カペラは頭を振った。


そこへ、騒ぎを聞きつけたシオンとリゲルが現れる。


「カペラさん、会えて良かった」

「聖女様! こちらから出向かずすみません」

「いいえ、皆さんにあらましは聞きました。奇石がなくなったと」

「はい。ギナンという神官も姿を消したと」

「あの事件と関係があるとお考えですか?」

「分かりません。しかし、偶然にしては似すぎています」

「そうですよね……」

「聖女様、奇石を欠いた結界は脆いです。

 魔物に囲まれる前に早くお逃げください」

「嫌です」

「え?」

「危ないんですよね?」

「はい、だから早く逃げて……」

「だったら、私も戦います。浄化は私にしかできませんから」

「……!! 絶対私のそばを離れないでくださいね」

「はい!」

「シオン様、私もおります」

「ありがとうございます、リゲルさん!」

「聖女様は神官の皆さんと神殿内へお逃げください。

 私は辺りの住民に声かけを……」


ざり、と音を立てて、カペラの背後に狼のような魔物が迫る。


(危ない……!!)


「シオン様伏せてください!」

「え?」


どん、と突風が魔物を吹き飛ばし、戦闘不能にさせる。

シオンのそばにリゲルが駆け寄る。


「お怪我は?」

「いえ……」

「良かったです、神殿に急ぎましょう」

「リゲルさん、さっきのって」

「風魔法です」

「侍女は緊急時のみ魔法の使用が許されているのです」

「怖がらせてしまってすみません」

「いえ、助かりました。今度私にも魔法を教えてください」

「すみませんが、それは王都に戻ってからの相談にしてください」


辺りには先ほどの魔物の仲間が集まってきている。

2人の前に立ちはだかるカペラ。


「ここは私は引き受けます!聖女様は結界の補修を」

「すぐに戻ります。それまでお気をつけて」


カペラは心配する2人に笑顔を向けて、自分は大丈夫だと見せる。

その姿に後ろ髪を引かれつつ、シオン達は神殿に向かった。

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国の観察対象になりまして ※推敲の為少し投稿ペース落ちます @kikilala0805

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