第9話
「断る」
エルフからの【魅了】をしてくれという要請を、普通に断る。
何が目的かは知らんが、面倒事の気配しかしない。
「ふむ」
エルフは僕の答えに狼狽えることも、憤ることもなく、無表情のままパチンと指を鳴らした。
瞬間、何かに弾かれ落ちる仮面。
僕の素顔が、エルフの前に晒された。
「――っ!?」
何をされた!? 全く見えなかった――魔法!?
急いで仮面を拾い上げ、装着するがもう遅い。完全にエルフは僕の顔を見てしまった。
【魅了】が発動する。
「成程ね、こいつは凄いわ……」
「……?」
【魅了】された対象は、例外なく僕の虜になり、僕に露骨な好意を示すようになる。
だらしない笑みを浮かべ、僕に媚びへつらう愛奴隷になってしまうのだ。
だが、エルフは無表情のままだった。
【魅了】が、効いていない? まさかマーロンみたいな特殊体質……?
「安心して、ばっちり【魅了】されたけど直後に
「レジスト……!? 僕の魅了って防げるものなのか……?」
「人間には無理だろうね。けどエルフなら大抵のやつは可能だ」
え、エルフってすげぇ……。
美人だし魅了が効かないし……まさか、エルフが僕の運命の人……!?
いやいやいや、待て待て僕。もう僕にはマーロンという心に決めた人がいるだろうが。
「中に入れてくれないか? 詳しい話がしたい」
「…………」
「頼む」
少し考えて、エルフを家の中に入れた。
魅了のレジストに興味がわいたのもあるが、その頼みが、深刻なものであることが伝わって来たから。
「あっ、先輩、お客さんはどなたでした?」
「マーロン、丁度良かった。お茶を淹れてくれないか?」
玄関近くまで様子を見に来ていたマーロンにお茶くみを頼み、エルフを客間まで案内する。
エルフが来たことにマーロンは驚いた様子を見せたが、台所に向かってくれた。
「改めて名乗ろう。私はラヴェール、見ての通りエルフ族だ。年齢は大体1500歳くらいだな」
「1500……」
客間に着くなり、いきなり驚かされる。
それだけ生きていれば、僕のスキルを防ぐことくらいできるということなのか。
「僕はレクス。一応Sランク冒険者の資格は持っている」
「あれ? 先輩この前Aランクって言って無かったでしたっけ?」
「実力的にはあんまAランクと変わらんからな」
マーロンが出してくれたお茶を啜る。
Sランクの末席を汚しているが、僕の実力はAランクの冒険者とあまり変わらない。
僕がSランクになれたのは、アレックスとヴィヴィアンのおかげだ。
「レクス、お前にはエルフの隠れ里に来てもらいたい」
「エルフの……?」
ラヴェールは単刀直入に本題に入った。
「ああ、残り少ないエルフの八割が住んでいる、隠れ里だ。人間を案内するのはこれが最初になるな」
そんな場所があったのか……知らなかった。
エルフは人智を超えた存在だから、人が住めないような過酷な場所に隠れ里を作って住んでいる、という説はあったがまさか本当だったとは。
「何故僕をそんなところに? 【魅了】の力が関係しているのか?」
「ああ、その魅了の力で――――里の女エルフを全員孕ませて欲しい」
は?
【魅了】スキルとかただの洗脳じゃねえか! ~神様から【魅了】スキルを貰ったけどただの洗脳としか思えないので【魅了】が効かない運命の相手を探します~ びたさん @vitasan
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