第8話
「んじゃ、部屋はここを使ってくれ」
「はーい!」
あの後、荷物を持って家まで来たマーロンを空き部屋に案内した。
購入した時に付いてきた必要最低限の家具はあるので、拠点にする分にはなんら問題無いだろう。
「しかし、空いてる部屋の中でも一番小さい部屋だが……ここでよかったのか?」
「はい! 故郷でも小さな部屋で寝ていたので、広すぎると逆に落ち着きませんね」
まあ本人が良いなら良いか。
「んじゃあEランク昇格と同時にやっておくべきこと終わりっ。六日後にまたクエストを受けるが、それまでは休憩。ただし日々の鍛錬は怠らないよーに。特にスキルブックを読んで憶えておくのは忘れるなよ」
「了解です!」
「あと、家であまり騒ぎ過ぎないようにな、それじゃ、俺は自分の部屋に居るから」
「はい!」
マーロンが荷ほどきを始めたのを見て、僕はその場を去る。
自身の寝室に入って、ベッドに寝転がり、仮面を外して腕で顔を覆う。
(――好きな娘と、同棲……!)
顔のにやけが止められそうにない。
身体を抑えておかないと小躍りしてしまいそうだ。
落ち着け……マーロンは僕が紳士で頼りがいのある先輩だからこそ、同棲しても問題ないと判断したんだ(多分)。
クールだ、クールになるんだ僕……。
「きゅきゅ?」
リス美が心配そうな声を出しながら僕のフードから出てきた。
そんなリス美のことを両手で包み込むように抱き締める。
「なあリス美、聞いてくれよ、今日からマーロンがこの家に一緒に住むことになったぞ」
「きゅっきゅ」
「そうかそうかお前も嬉しいかー! そうかー!」
「きゅー……」
ゴロゴロと左右に寝返りを打ちながら、リス美に頬ずりする。
さー、家事分担とか、共同生活のルールとか決めないとなー。
料理は是非マーロンに任せたい。その分洗濯とか掃除は僕が……いや、洗濯は勿論下着は個人個人で洗うけどね?
「ん?」
とか、そういう妄想をしていたら来客を告げるベルが鳴った。
リス美を手のひらから解放して、立ち上がる。
仮面を着け、万が一に備えて聖剣を腰に帯びて、玄関に向かった。
扉を開かないまま、問いかける。
「誰だ?」
「私はラヴェール。
エルフ!?
扉を慎重に開けると、確かにそこにはエルフが居た。
金髪碧眼。耳が長く、美しい顔をしたその姿は紛れもなく先ほどギルドで見かけたエルフだ。
「《仮面の貴公子》、レクスだな?」
そんなダサい異名を名乗った覚えは無いが、その通りだ。
なんか気付いたら変な異名を付けられていたのだった。
「……何の用だ?」
「頼みがある」
エルフは――ラヴェールは、淡々とした口調を崩すことなく、言葉を紡ぐ。
その平坦な表情からは考えられない、とんでもないことを。
「顔を見せてくれないか?」
僕は、ただ目を見開く。
それ以外出来ないくらい、驚いていた。
「【魅了】が出来るんだろう? お願いだ、私を【魅了】してみてくれ」
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