光あれ。

音雪香林(旧名:雪の香り。)

第1話 祈り。

ついこの間まで暑いと文句を吐いていたと思ったら、こんどは寒くなった。

ちょうどよい気候ですごしやすく、おしゃれも楽しめる秋はどこに行ったんだろうか。


そんな11月中旬の深夜、眠れないまま私はパソコンのキーを打っている。


電気代節約のためにエアコンはつけず、靴下に体感温度を上げると評判の肌着と厚手の寝巻、その上にニットのカーディガンを羽織っている。

だがキーを打つために手袋などはつけられないため、どうしても指が冷えてしまう。


「なんで私、こんな時間に日記なんて書いてるんだろう」


別に誰に指図されたわけでもないのだから、眠気がなくともベッドに入って目をつむっていればいいのに。


パソコンも電灯も電気を使う。

費用がかかる。

エアコンを我慢しているんだから、日記だって書かなきゃいいのだ。


わかっているのに。

どうしても「何か書きたい」のだ。


もし私が小説家などだったら「職業病」だが、たんなる一般人なので他人から見たらただの「暇つぶし」だろう。


「夢破れて山河あり、か」


ふとつぶやく。

これは中国の詩人である杜甫の『春望』の冒頭「国破れて山河在り」が元になっている言葉らしい。


ちなみにスマホで調べてみたところ「国破れて山河あり」とは、戦乱で国が滅びても自然はもとのままのなつかしい姿で存在していることを感慨する言葉らしい。


「自分のちっぽけさが迫ってくるなぁ」


電波時計を確認すると、もう朝の5時だった。

少し早いが窓のカーテンを開けてみた。


まだ暗い。

明けぬ夜はないが「秋の夜長」という言葉もある。


「日が差してくるまでゆっくり待ちますか」


時が来たら太陽に照らされた町を歩こう。

何か見つかるかもしれない。


もちろん見つからない可能性もあるけれど、なにもしないよりはいい。

ただ立ち止まって考えに沈むより、行動した方が頭も回るだろう。


さあ、新しい日の始まりだ。




おわり

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