第43話 国境戦
◇
フェルノがスキルを宣言した瞬間、荒廃した村の景色が森に囲まれた轍に変わった。後ろを振り返ると、軍隊が進んだ道の向こうに、小さく焼け死んだ集落が見えた。
「フェルノ、これは」
「
例1: フェ 基点 移動場所
例2: フェ 基点 移動場所
「線対象移動ってそういうことか。文字に書くと分かりやすいな」
「だが、着地点を間違えれば勿論命の危険性もある。だから、殆ど場合は拓けた場所でしか使わない。今回は特別だ」
俺は背負われながらそれを理解した。だが、きっとこれで軍を振り切れてはいないだろう。今、俺達が向かっている関所の付近にはミルド魔法軍第二支部がある。魔法軍と言っても、その全容はただの剣士と魔導士を組み合わせた軍隊だ。その大きさは洒落た物ではなく、第五部隊まで用意してあるという周到さだ。一つの支部でそれだけの規模であるから、本部はもっと大きいに違いない。それにしても第二支部がここまで巨大になったのは、最近他国といがみ合ったり、第二支部が国境の間近に建設されているからだろう。
なあ、と俺は誰に向かって言うでもなく話し始めた。
「関所って第二支部の管轄だろ? 迂回するべきじゃないか」
「いや、このまま行く」
答えたのはフェルノだった。
「軸移動は一日二回までなら問題ない。それに、関所さえ越えればミルドの軍も追って来ることはないだろ?」
「合理的な判断に基づいた結果、か」
「関所に到着するまでに、他部隊の応援が来る。それをどういなすかが問題だ」
頷きながら、フェノーの様子を窺った。先程から、俺を抱えたまま疾走している。少し息切れをしており、このまま関所まで持ち堪えられるか、未確定だった。休憩をした方がいいが、生憎そんな余裕はない。部隊に猶予を与えてはならないのだ。満身創痍の俺が言えたことではないが。
すると、地平線まで続いた轍から、何かの建物が見えた。続いて、旗__ミルドの国旗が見えた。
「フェルノ!」
「ああ、あれが関所だな」
近付く程、その全貌が明らかになる。森の辺境に建てられた巨大な木造建築物。入り口で待機する無数の人々。そして、向こうはこちらの存在に気が付いた。背後にはまだ部隊が見える様子はなかった。
「ライト、向こうに人じゃないモノが見える。あれは……大砲?」
ミカに言われて、すぐ前を向いた。大勢の兵士に囲まれた、巨大な鉄の塊。その標準は、こちらに向けられていた。
「違う、あれはただの大砲じゃない。恐らく……魔砲と呼ばれる、古代兵器」
「母さん、それ冗談で言ってるのか? 魔砲は過去に俺達が全て破壊したはずじゃないのか?」
俺は耳を疑った。ミルドがそんな代物を保有していたなんて。
「分からない。でも、そこにあるのは事実よ」
「なら、もう一度ぶっ壊すまでだな」
魔砲と呼ばれているそれが、魔力の圧縮を開始した。あと十秒もすれば放たれるだろう。
「避けるのは不可能だけど、所詮魔力の塊。どうってことはないわ……スキルを併用すれば」
リノアが立ち止まった。それに合わせて後ろに隠れる。
「私のスキル__名を
リノアはまだその刃を鞘から抜こうとしない。その佇まいからは、その凜とした姿からは、どこか余裕があるように見えた。
「
瞬間、前方から白い光が襲った。リノアが斬り上げると、それに沿って、魔砲は上空へと誘導された。
「これは……」
「脅威は、もう残ってないわね?」
これはいくら何でも、常軌を逸している。それを目の当たりにしたミカやミラも、苦笑を浮かべていた。そうしてソライン家は化け物であると再確認した後、また俺達は魔砲を避けながら前進を始めた。
「なあ、関所を通らなかったら、俺達は違法入国者だろ?」
「今更そんなこと気にしてんのか? 今それどころじゃねぇっつうの」
「そうだな……」
思いながら、そろそろフェノーに申し訳が立たなくなって来たと感じ始めた。大人一人をこう長く背負っていれば、限界が来るのも時間の問題だろう。かと言って、自分で歩ける訳でもなく、空が飛べる訳でもないから、複雑な気持ちでフェノーの肩に手を置いた。
「
ミカがスキルを使った。話には聞いたが、使っている場面に直面するのは初めてだった。
◇
「現在、魔物とその仲間の人間は魔砲を何らかの方法で回避し、依然としてこちらに向かって来ます! 隊長、どうしますか?」
「……一度、交渉を試みる。向こうに人間がいるなら、意思疎通は可能なはずだ。しかし、それが困難であると判断されたのなら、攻撃を再開するに他ない。先制攻撃された場合も同様だ」
「もし向こうが攻撃して来るまで何もするな、と?」
「ああ」
「ふざけているんですか! 大勢の命が掛かっているんです。あなたと同じ、人間の命を蔑ろにできる訳がないでしょう!」
「君なら、この状況を打破する考えがあるとでも?」
「……もう、そうするまでに追い詰められているということですか」
◇
ミカは何かを確信したように口角を上げた。
「ライト、この戦いはもうすぐ収束するよ」
「それはどういう意味だ? 向こうに戦う意思がないのか?」
「……向こうは、交渉しようとしてる。その内容までは分からないけど、もう、必要のない負傷者を出さなくても良くなると思うの」
それを聞いたフェノーは安堵をして、そうか、とだけ呟いた。リノアとミラはまだ油断はできないと言いたげな顔をし、フェルノは……その場にいなかった。
「フェルノは、どこに?」
「先に行った。この時間がもどかしくて仕方がなかったんだろう」
フェルノの言葉は巧みだ。短気な性格ではあるが、様々な思考の末、行動を起こしている。その全ては衝動的ではなく、緻密に、計算された物だ。
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魔法あるからさwと追放された元勇者補佐の弓兵は成り上がる 雲散霧消 @unsanmushou
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