女神のリンゴ

 クロウの奇跡の回復から二日が経過していた。


「おい、お姫様はまだ目が覚めねぇのか?」


 シャリッ


 リンゴをかじりながらクロウがハヤトに問いかける。


「メディの話じゃ、すぐに目を覚ますだろうって話だったんだけどな」


 シャリッ

 

「じゃあ、ハヤトはずっとこの子のそばにいるの?」


 シャリッ


「俺は一応この子の保護者だからな」


 シャリッ


「そうか……」


 シャリッ


「なあ……」


 シャリッ シャリッ シャリッ シャリッ


「用がないなら出て行ってくれないか?」


 シャリッ シャリッ もぐもぐ ごっくん


「なんだよ、俺がいると邪魔なのか?」

「そうよ、この子にお礼を言わなきゃいけないんだから!」


 ハヤトの保護した少女が「奇跡」を起こしてからのこの二日間――ツカサファミリー内は色々な意味で荒れた。

 クロウが回復してすぐに少女は気を失ってしまい。医務室のベッドの上にいる。

 ハヤトはファミリーの全員から質問攻めにあい。目を覚ますとクロウまでその標的にされてしまった。騒ぎはそれだけにとどまらない。

 問題は――少女の創り出した「樹木」にあった。

 樹木の種はもともとハヤトの物だ。

 いかな不思議かその種が全員の目の前で成木へと育ち瀕死のクロウを癒してみせたのだ。さらに起こった奇跡はそれだけではない。リンゴの木は実をつけ始めたのだ。

 この世界において食糧問題は深刻だった。特に肉や野菜、魚などの生鮮は致命的だ。手に入らないというわけではないがその数量は少なく入手困難なため価値が上がり高騰していた。

 しかし――

 それが安易に手に入るようになった――なってしまった。リンゴはツカサファミリーにとっての大きな生命線になった。水分・ビタミンの補給はもちろん、売ればかなりの高額手取引される。


「リンゴが食べられるなんて! なんて幸せなのかしら!」


 チハヤが満足とばかりに加護に盛られたリンゴに手を出そうとする。


「やめろ! これはこの子の分だ!」


 クロウがカゴを持ち上げリンゴを守る。


「なによケチ!」


 チハヤが頬を膨らませるがクロウはそれを無視した。

 リンゴの件だけにとどまらず、少女の存在はツカサファミリー内でも物議をかもしていた。

 既にハンターであるかどうかなど些細な問題だ。

 瀕死の人間の完全治癒、リンゴという無償果実の提供、全員の脳に直接言葉を伝えた能力。

 そして――


「髪……元の黒色になっちゃったね」


 チハヤが残念そうに呟く。

 様々な軌跡を起こした少女は皆の目の前で白銀の髪、紅の瞳に「変身」した。それは、目にした者を魅了し、誘惑し多くの信者を作り出した。

 クロウを回復させると共に元の姿へと戻ってしまったが、それでも与えた影響は大きい。 

 その最も影響を受けている男がいた。

 それが――


「よお! 女神様はまだ目覚めないのか?」


 ビシッと髪を整えた男が医務室に入ってくる。


「医務室では静かに!」


 メディに怒られても入ってきた男は「固いこと言うなよ」と返しながら入ってくる。

 その男はカイジだった。少女に銃を向け、それを庇おうとした仲間のハヤトにすら銃を向けた男。

 少女の奇跡を目の当たりにし、完全に女神の信者へと変わってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍王の姫 世紀末の世界で救世の姫と呼ばれ 須賀和弥 @vision_com

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ