「二次創作集」

@Ichiroe

第1話「呼んだ?」前編

ねぇ、XX通信って——知ってる?


夜十二時、私はふと、そんな一言を思い出した。まだ学校に行ってた時の昼休み、偶然誰かの話を耳にした。誰かの、と言った理由は、よく知らない相手のことだからだ。


一周間前のこと。私はどうやら帰宅中、車に轢かれたらしい。身体は各所の擦り傷以外、大したケガを負わなかったが。頭は強く地面とぶつかった。そのせいで、断片性の記憶障害が起きている、と検査のあと、病院の先生にそう結論された。私自身も、事件に逢う直前の記憶は曖昧である。


それ以来、入院観察する羽目になってから、私は静養しなさいと過保護の母さんに言いつけられ、仕方なくずっと寝込んでいた。ちなみに、父さんが病院の院長だから、当然のようにVIP病室に移された。そこは見渡すかぎり、娯楽要素が何一つない、とても“清々”する療養向きの場所だ……


退屈しのぎしたくても、カバンにあったスマホは壊れ、残されたのは範囲がわかない宿題をやるか、或いは教科書を読むかの二択しかない。


妹のきょうこがお見舞いしに来たことを機に、母さんの目を欺いてこっそり、「次来る時、家から私のパソコンを持ってきてほしい……」と頼み。当然、我が妹のことだ、見返りはきっちり要求された。


入院三日目。約束通り、きょうこは内緒に持ってきた。


なのに、私は待機画面の前で漠然としていた。


つくづく滑稽と思う。


「パスワードが思い出せないんだけど」


断片性の記憶障害……なるほど。


事は、意外な展開に至りました。


まあ~


現実は小説よりも摩訶不思議って、よく言うじゃん~


これもそういう系の不可抗力だし~


あんまり気負うこともないよ~


なんて、言い聞かせても、娯楽のない日々はやはり窮屈すぎる。


ひとまず自分の誕生日を入力する。


——8月22日。


まあ、ひとまずと言ったから、あんまり期待しないほうが


——Login success.


嘘だろうー?!


私って、結構簡単なやつだったんだ。


「まあ、いっか」と、呆れつつ、正直にキーを押した。


時刻が右下に示され、丁度、23:59から24:00に変わった——


画面が進み、開いたままの謎のサイトページが出てきた。


背景が真っ黒なページの真ん中に


——あなたの怨み、晴らします。と一行の赤い文字が書いてある。


その真下に見当たる入力枠に、すでに三文字が入力された。


——坂上 涼


「だれ?」


それらすべてに疑惑を抱き、思慮を巡らせ、私は何時ものように物事を分析し始める。


まず、意味深のその一行の文字だが。怨みを晴らします……って、随分と古臭い言葉だけど、この素朴のベージはいささか不気味に感じる。


今どき、ただネットで人を寄せ付けたいのなら、サイトのページはもっと派手にできてもおかしくないのに……見当がつかないなぁ。一体、誰がどんな意図でこんなサイトを……或いは、文字通り……


って、いや——いやいやいやいや、まさかね……自分の推測に呆れた。だが、そうだとしたら、すべても辻褄が合うような気もする。


ホームズが言ってたように、残されたたったひとつの可能性がどれだけ信じ難いでも真実である、と。案外、こういう場合だったり……?


さっきまで、私の頭はまるでどこかの歯車が引っかかったようにうまく回らない。何より、その回らない歯車のおもてには秘密が隠され、私の認識力じゃ足りなく感じて腹立しいだったが。今となれば、曇り空がパっと晴れたのように、逆にドン引きした。


考えすぎたせいか。「これはきっと本物の類だ」と錯覚が生まれた。


私の地獄の始まりは、きっとその時だ。


言説ができない不可抗力が作用した。


あの決定的な一言が自然と、脳うらに浮かんで、拭えきれない。


ねぇ、地獄通信って——知ってる?










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