エピローグ
あれから一年。
9月23日。約束通り、僕は見附海岸にやってきた。
18時。見附島のシルエットが、夕焼け空とくっきりとコントラストを成している。
「……」
午前中からずっと待っていた。だけど、彼女は……姿を見せない。
既に日は沈んでおり、濃いオレンジ色の空の光が、微かに辺りを照らし上げていた。
やっぱ、ダメだったか。
帰ろう。
踵を返し、駐車場に向かおうとした、その時。
「!」
信じられなかった。
そこに、鈴木さんが、いた。肩で息をしながら。
「はぁっ……はぁっ……」
両膝に両手をついて、鈴木さんは激しく呼吸する。やがて息が整ったのか、背筋を伸ばし、彼女は真っ直ぐに僕を見た。
「ごめん……高速道路で事故があって、大渋滞になっちゃって……バスが今さっき
「鈴木さん……」
彼女の姿が、涙に滲む。
「はい、これ」
鈴木さんが、麦わら帽子を僕に差し出した。
「! これは……」
「そう。お姉ちゃんの形見。これは『コースケ』が受け取るべきだと思う。ほんとはね、一年前も、コースケが君じゃなかったら、これを渡して本当のことを言うつもりだったんだ。お姉ちゃんのこと……これからもずっと、忘れないでいてほしい」
「ああ。ありがとう」
涙を拭いて、僕は麦わら帽子を受け取る。
「あれからね、あたし、お姉ちゃんの夢を何度も見た。夢の中で彼女はいつも言ってた。『何やってんの? せっかく私が麻衣と彼を出会わせてあげたのに……彼のこと幸せにしてあげなきゃダメでしょう?』ってさ……ほんと、呆れるよね。あたしにとって都合が良すぎる夢なんだからさ……」
鈴木さんは苦笑して、続けた。
「でもね、何度もそんな夢を見るうちに……お姉ちゃん、ほんとに天国でそんなふうに思っているのかな、なんてさ……これも都合が良すぎるんだけど、そう思えてきて……君に会いたくなった」
「ううっ……ぐすっ……」
ダメだ。涙が止まらない。情けないけど、どうしようもない。そんな僕の右手を、鈴木さんが握った。
「ね、織田くん。えんむすびーちの鐘、一緒に鳴らさないか?」
えんむすびーちの鐘は、恋人同士で鳴らすと恋愛が成就すると言われている。
「……ああ」涙を拭いて、僕は応えた。
やがて。
二人の新しい関係の始まりを告げる鐘の音が、残照の中に鳴り渡った。
夏の終りに、あの場所で…… Phantom Cat @pxl12160
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