【ありがとう】
「たまには外で食べようよ」
そう言うと
「また今度な」という台詞を何日も聞いた挙げ句、ようやく私たちは平日夜の外食に出た。
それでありきたりなイタリアンファミレスにやって来たものだから遼は眠そうな目をさらに薄くした。
「ここかよ」何度も来ているじゃないかって顔している。
「慣れたところの方が良いでしょ」
「お前、別の店舗に友だちと入っているだろ?」
学校近くにも同じチェーンがあった。確かにそっちの方が入った回数は多い。
でも「遼と入るから良いんじゃない」そう言って遼の腕に
結局私の言うことに逆らわないのだ。このシスコンめ。
店内は比較的空いていた。オーダーはタブレットでする。お水はセルフだ。
だから店員は少ない。料理を運ぶのと片付け、レジで忙しそうに動いていた。
私はその中に
「
「お客さま、オーダーの仕方がわかりませんか?」と訊くのは口実だ。「こんばんは。お二人揃っているの、珍しい」
「出不精だから」
私が
「ふたごちゃんは仲良くお留守番?」
「いや、あっちにいるわ。こぶつきで」
指差す方にある四人掛けに小早川さんの双子の弟妹がいて、その保護者のような男女がいた。
こぶつきとはその二人を指して言っているのだと私は思った。
「ドリンクバーはあちらでございます」小早川さんはにっこり笑って厨房に消えた。
私と遼はタブレットオーダーしてすぐにドリンクをとりに行く。
その帰り、遼はまっすぐ席に戻ったが、私は小早川さんの双子の弟妹と「こぶ」と言われた男女がいる席に寄った。
「「
ふたごが私を見つけた。いつもながら声が揃っている。同じ双子でも私と遼ではあり得ない。
「こんばんは」
「りょーちんも来てるの?」妹の方――
「いるわよ、ほら、りょーちん」私は離れた席にひとりでいる遼を指差した。
「「りょーちん!!」」
ふたごが叫ぶ。可愛いけど店内ではうるさいな。
「静かにしないとお姉さんに叱られるわよ」私が言うとふたごは黙った。
小学校二年生。実年齢より幼く見えるのは姉の小早川さんがとても可愛がっているからだと思う。
しかし勉強はよくできるようだ。たまにうちでもこの子らを預かったことがあるが、あの遼が賢いと褒めていた。子供嫌いな遼が褒めるなんて滅多にない。
「お兄様とデート?」そこにいた男の方が私に訊く。
「まあね」
「良いなあ、こんど俺とどこか行かない?」
軽いな、ほーちゃんも。そしていきなり隣にいるふーちゃんにつねられて「いてえ!」と叫んでいた。
いつもの光景だ。この二人も私たちと同じだ。同じ日に生まれた姉弟。
「浮気は許さないわ」
笑顔のふーちゃんは怖い。ほーちゃん大好きのブラコンだ。ここはふーちゃんの方が姉で力関係もふーちゃんの方に分がある。うちとは違うな。
小早川家の双子
私たちは皆同じマンションに住んでいた。小早川さんがバイトをしている間、玲音・莉音はふーちゃんのところか私のところに遊びに来る。それくらい顔馴染みになっていた。
「お兄さまがさみしそうよ」
ふーちゃんが言うので私は「じゃあねー」とそこにいた四人に手を振って遼が待つテーブルに戻った。
そのタイミングでパスタ、サラダ、ハンバーグセットが運ばれてきた。もちろん運んできたのは小早川さんだ。
「お騒がせしてごめんね」
「元気で良いわよー」
「あいつらに
「え?」
「以上でお揃いでしょうか」小早川さんは伝票をおいて忙しそうに去っていった。
「何て言ったの?」
「ハラカラ5分の4――とか?」
「ハラカラ? 5分の4?」
「あいつらのことだろ」ふーちゃんとほーちゃんを指して自分はハンバーグにナイフを入れた。
5分の4だから「フォー・フィフスス……舌を噛むわ」
「日本人には無理な発音だな。単数でも複数形でもフィフスに聞こえる。だからフィフスで良いんだよ」
始まったよ。口を開いたと思ったらうんちく祭り。ご丁寧にもスマホでネイティブの発音まで聞かせやがる。
「確かに。どっちもフィフスに聞こえるわね」ちょっと違うけど。
私はパスタを口に入れた。ここのカルボナーラ、安いのに美味しいんだわ。
「最後のスを単数形なら’th’、複数形なら’s’と発音すればそれっぽく聞こえるな」そう言って何度か復唱した。
「ありがとう。とっても役に立ったわ」
ハラカラって何?と聞こうとしたがやめた。あとで自分で調べよう。自分で調べることの大切さを改めて知らされた日だった。
星は煌めきたくない はくすや @hakusuya
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