第2話 神前挙式
俺が黒紋付羽織袴。
君が白無垢。
神前挙式にしようと決めていた。
のに。
『ごめんなさい。愛する人がほかにいたの』
君の愛した人間はパイロットだった。
君を俺から奪った人間はパイロットだった。
ゆるすまじ。
ゆるすまじ、パイロット。
パイロットはすべて、
パイロットに興味を持ってもらうのも仕事だから。
会社の方針で、全員が交代でこの施設に出向して、フライトシミュレーターや客室乗務員の講師を務める事になっていた。
今日は俺の担当で、いつものように駅からこの施設までの道のりを歩いていると、露天商のおっちゃんに話しかけられた。
ひひひと不気味な笑いを発しながら、黒紋付羽織袴を勧めてきたのだ。
いや、出勤途中だし、何より相手がいないし。
断って、あっさりと引き下がったおっちゃんに背を向けた時だった。
俺は背後からおっちゃんに襲われて気が付けば。
施設の中のフライトシミュレーターのある部屋に佇んでいた。
黒紋付羽織袴を身に着けて。
お客さんらしき少女に、何とも表現しがたい瞳を向けられながら。
(2023.11.17)
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