衝動の黒紋付羽織袴

藤泉都理

第1話 一万二千円から




 景色を見て特産品を食べるという観光に飽きてしまい、何か活動的な事はないか、ぶらぶらと歩いて探している時だった。

 見つけたのだ。

 本物のパイロットの付き添いで飛行機操縦のパイロット体験を楽しもう、と書かれた幟を。

 ほうこれは面白そうだなとの感想はすぐさま打ち砕いた。

 フライトシミュレーター体験三十分、一万二千円からと書かれていたのだ。

 一万二千円からだ。

 こんな体験は豪遊者だけができるのだ。

 諦めては、さっさと背を向けて家族と合流しようとしたが、足は二、三歩動いては立ち止まる。

 一生に一度、あるかないかの体験だと思えば、まあ、一万二千円からは、まあ。一度に使うには大金だがまあまあ。

 一生に一度だしな。

 衝動には打ち勝てず。

 自動ドアを潜っていた。

 事をすぐに後悔した。




「くっくくく。そなた。パイロットになりたいのか?」




 わあ、黒紋付羽織袴姿のパイロットっているんだ。










(2023.11.16)



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