第2話 分岐点での正解の選び方
いつからだろうか。
私は周りの人間とは違う特別な存在だと思い始めたのは。
主人公のような最初から輝いているモノではなく、漫画やアニメの後半あたりからだんだん輝いていき、物語のキーパーソンになるような存在と思っていたのは。
けれども、誰も私を見てはくれない。
誰も興味を示さない。
無視をされているわけではなく、気づいたらすれ違っていたようにスルーされているのだ。
わかっている。
私は“かくざとう”だ。
人間だけれどもかくざとうなのだ。
それは白く美しく、少し触ったぐらいでは崩れない。
けれども、熱々のコーヒーの中に一つ落下させれば気づいたら形は無くなっている。
丈夫だが脆く、白色(はくしょく)として存在を表しているのに光り輝いているわけではなく、いつのまにか何かの物陰に隠れて同化している。
この定型文を伝えるといつも「なんか変わってるね」と言われる。
私はおかしいのか。
それとも、これでこそ私であり異常ではないのか。
少なからずこのような考え事はネガティブな気持ちになってしまう。
やはり「運動」は良いな。
脳みそが体を動かすことに精一杯になり、他の事を忘れることが出来る...
2019-11/24 21:36
部屋にかけていたウインドブレーカーを着て手袋をはめてイヤフォンをつける。
「こんな時間にまた散歩?
...早めに帰ってきなさいよ?」
私を産んだ肉片が音を鳴らすーーー
私には聞こえない。
何をいっているのか。
もう音は受け入れたくない。
私は黙ったまま家を出た。
歩くことは好きだ。
けれど、人間は嫌いだ。
特に、歩く時間は基本夜なもんで大抵自分以外の歩いている人間は全員不審者だと思っている。
そんな私も他の誰かからすれば不審者なのだろうけど。
夜中に散歩をしていれば3回に1回はすれ違うだろう。
ちょっとイチャコラしながら歩いているカップルに。
私は羨ましいよりも虚しいが感情を追い越してくる。なんせパートナーといった存在が生まれてきて一度もなく、生物的に子孫繁栄に貢献できていないからだ。
わかりやすくすると、カップルをみると周りは仕事をしているのに、自分だけが仕事をしていない感覚になってしまうのに似た感情が出てくる。
やっぱり羨ましい
ここは夜、人気のなくなった商店街だ。
ほとんどの店はシャッターを閉めるか、closeと書かれた看板を扉の前にぶら下げているかの二手に分かれている。
たまに、低予算で作られてそうな店のキャラクターが一瞬視界に入ると思わず恐怖で叫びたくなる時がある。
あの死んだ目をしていながら口角を目尻にくっつけるぐらい笑っている丸っこい顔の形をした存在が心臓に悪すぎる。
とてもドキドキしてしまう...これは恋か?
そんなこんないつも同じような道を歩き、同じような事を頭の中で独り言をしているのだが、今日はなんだか違う。
とてもとは言えないが横隔膜あたりからだんだん燃え上がるように、気分が高まっている気がする。
「あの横断歩道まで走るかぁ」
まともに運動してない体で準備運動すらしていないのに、気が狂ったように走り出した。
「フオォォオオ!!!」
多分誰もいない商店街をひたすら奇声をあげながら走る。
ただひたすら走る。
それがとても気分が良く、人として生(せい)を感じるのだ。
横断歩道まで走り終わると何も無かったかのように渡った。
「はあぁっ...だはっ...はぁ」
呼吸が乱れている時は歩いていた方がいいとどこかで聞いたことがあるので私は止まらない。
一歩ずつ一歩ずつ、ゆっくりでも前に進み続ける。
「...ここは虫が多いな」
頭の中から漏れ出した声が木々を揺らす。
いつのまにか知らない森に入っていた。
ちなみに私はダチョウではない。
人間だ。
少し怖くなってきて後ろを振り返る。
しかしさっき渡ったばかりの横断歩道すら見えない。
休憩で歩きすぎたと思い歩いてきたであろう方角に歩みを進める。
けれど歩いても歩いても横断歩道は見えない。
それどころか光が微かに見える方角に進んでいるのにも関わらず光が遠くなっている気がする。
私は...
「早めに帰ってきなさいよ?」
あの音が脳を震わす。
胸が刺されたように痛くなってきた。
私は人の期待には応えることが出来ない。
それがどんなに小さく、誰でも出来るようなことであろうとも。
視界がだんだんと溺れていくーー
涙が降ってきたのか
「私はかくざとうだ。水にはめっぽう弱いのだから早く止んでくれ...」
涙を忘れるためにまた歩き出す。
ひたすらに時間すら忘れてーーー
20XX XX/XX XX:XX
今は何時なのだろうか。
時計は持ってきておらず、スマホの充電はとっくに切れていた。
「夜は長いな...」
もしかしたら森に入ってから3日ぐらい経っているのでは?と思うほど暗い時間が続く。
けれど私は歩き続ける。
動かないよりは動いた方が何かしらの事はあると思うからだ。
けれど、歩いても歩いても景色は一切変わらない。
視覚がつまらない。
そのはずだった。
ふと瞬きをすると、奥に何か自然では出来ないようなものが見えた。
はっきりとは見えないが、少なからず何かの手は加えられない限り出来ないようなものが見える。
あれはなんだと気になる探究心と、もし何かあったらと思う恐怖心が混ざる。
けれど、人を裏切ることの方がとっても苦しく、恐怖に感じる。
実際今さっきあの言葉に背いたばっかりなもんで、恐怖心が小さく感じた。
そう感じていなくとも、体は一歩ずつ無意識的に気になるものの方へ動いていた。
「これは...小屋なのか?」
気になるものに近づいて見てみると気でできた豆腐のような小屋だった。
やはり好奇心は勝つものだ。
その小屋はとても古く、ちょっと殴ればボロボロと木の板が折れてしまいそうなぐらい古びていた。
中に何かいるかもしれない。
それは動物の可能性が高いが人間であるかもしれない。
生きたものとは限らないが。
恐怖心をかき消された私は、今1番この空間で強い生命体かもしれないと言わんばかりに感情が昂る。
震えた手でボロボロの木のドアノブを握り、
壊れないよう出来るだけ静かに扉を開いた。
誰にもバレない手紙の書き方 萱月恵 @kayatukikeeei
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